!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。

















Hitmen'n Lolita #8









「『ブルー・ヘブン』の件か」

 多忙であると言った元親の言葉に、見た目とは裏腹な真剣さを感じ取った小十郎は件のドラッグの名前を口にした。今時分、四課が

忙しいといえばこの薬物絡みしかありえない。

「やっぱり知ってやがったか。……あの伊達組が任侠にとってはご法度のヤクに手を出すたぁ世も末だな」

「……」

 本当は濡れ衣もいいとこなのだが、当の伊達組ですら身の証を立てる証拠をつかめずにいる今、かつての同業者とはいえ今は警察の

人間である元親に下手なことは言えない。独自に調査している以上、変に勘ぐられては困るのだ。

 返す言葉を捜しあぐね、黙るしかない小十郎に(どうせまた何か企んでるんだろう)と鼻を鳴らす元親。伊達組とのつながりが深い彼ら

のことだ。隠蔽工作でもしているのなら容赦はしねえぞ、と心の中でつぶやいた。

「……だが、今日はその話じゃないんだろう?」

 どうやら用件は別にあるらしい小十郎に話すよう促す。

「あぁ。アンタに頼むのは専門外かと思ったんだが……ある人物の捜索願が出ていないか調べて欲しい」

「誰のだって?」

 彼の口から出されるには些か珍しい語句に、元親は興味を覚えたらしく即座に訊き返してくる。

「名は、政宗という。高校二年生。名前はいかついが、女の子だ。暗い茶髪で長めのショートカット。痩せ型体型で、右目に眼帯をして

いる。……この子なんだが」

 と、そこで何時の間に撮ったものか携帯電話のカメラで撮った政宗の顔写真を見せた。

「何だ、ガキじゃねえか。この子がどうしたっていうんだ」

「詮索はやめてもらおう。親なり保護者なり、誰かが彼女を探しているかどうかを知りたい」

「……何かのヤマ絡みじゃねえんだろうな? 大体なんでテメェがこんな女の子と関係しているんだ」

 場合によってはテメェをパクることになるぞ。と、言外に凄んで見せる。それほどに、小十郎という男と年頃の少女、という組み合わせは

異様なのであった。

「それも判らん。彼女とは、偶然知り合っただけだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「はぁ? 何だそりゃ。……まァ、いいか。いざとなったら逮捕するだけだ」

 何某かこの少女に対してやましいことがあれば、そもそも警察官である自分など頼っては来ないはず。怪しいことこの上ない依頼では

あったが断る理由もない。

「っても、悪いがオレは人捜しは専門外でな。少年課に後輩がいるから訊いてやるよ。ついて来な」



 繁華街の警察署というものはどこも似たようなもので、ここもご多分に漏れず1階入り口近くに陣取る少年課は補導された少年少女で

ごったがえしていた。

 怒声と喚き声、そこら中で取っ組み合い。がやがやがやがや。その様は、戦場さながら。

 ちょっと肩がぶつかっただけでガンをくれて絡もうとする威勢の良い少年もいたが、見るからに怖そうな元親と小十郎の姿を見とめた瞬間

に顔色を変えて引き下がる。

 そんな子供には目もくれず、元親は部屋を見渡し目的の人物を探した。

 それにしても、凄い喧騒だ。隣にいる人間にさえ話しかけるのに大声を出さねばとてもではないが聴こえないだろう。

 だが、信じられないことに二人の耳にこの大騒ぎを凌駕する声が飛び込んできた。

『――! よく聴こえませぬ!! もっと大きな声で話してくだされ!!』

 やたらと通る、若い男の声。どうやら電話をしているらしいが、これではきっと電話相手は受話器を耳から離していることだろう。

「お、いたいた。あいつ、声がデカいからすぐ居所がわかるんだ。……おい、真田ァ!! ちょっとこっち来いや!」

(後輩って、まさか)

 あのやかましい男か? いやな予感がする。あまり、人には知られたくないというのに……。

 真田と呼ばれた男は、怒鳴るように(本人としては普通に話しているつもりらしい)話していた電話を切り、受付カウンターにいる二人に

顔を向けた。

「先輩!! なんでござるかーっ!?」

(……ござるって)

 今時ありえない喋り方。それだけで濃ゆい人物像を想像してしまい、疲労の滲む溜息が出た。

 その彼はというと、並み居る不良どもを蹴散らして(あくまで本人は普通にどいてもらっているつもりらしい)あっという間に二人の前まで

やって来る。

 随分と若い。警察官の制服に身を包んでいるものの、年のころはその辺にいる補導された少年と大して変わらないのではなかろうか。

 いかにも熱血警官といった風で、意志の強そうな顔立ちといい、小十郎としては苦手な部類に入る感じの人間だ。

 紅い。

 別に、服装の中に紅い色などないのだが、なぜかその色を髣髴とさせる。譬えるならばそう、紅蓮の焔。

「……いつもあいつはああなのか?」

 常時血圧が高そうなテンション。やたらと通る、あの大音声。

「署内じゃ『天然拡声器』って呼ばれている。真面目でいい奴なんだがなぁ」

 げんなりして訊いて来る小十郎に、こちらもやや苦笑交じりに元親。

「珍しいでござるな、先輩がこんなところへ来るなんて」

「あぁ、悪りぃな忙しいところを」

「いえ、構いませぬ。……ところで、こちらの御仁は?」

 ちょっと引いて元親の後ろに立つ小十郎を見て、真田は何の用かと首を傾げる。

「知り合いでな。人を捜しているそうだ」

 正確には『捜しているかどうかを調べたい』のだが、面倒なので詳しい説明は省くことにする。

「この子の捜索願が出されていないか知りたいのだが」

 改めて政宗の特徴を告げ、写真を見せる。

「そういうことだ。いっちょ調べてくれないか? ……ああ詳しいことは訊くな。テメェにゃ関係ねえヤマの話だからな」

 聞いた特徴をメモに取ったものの、捜索願を出すのではなく捜している人間がいないか調べろ、などといういかにも訳ありな頼みに

不審気な表情になったのを見て、彼が質問を口の端に載せる前に元親が出鼻を挫いた。

 怖い先輩には逆らわない方が良い。警察学校時代の強烈な思い出が脳裏をよぎった真田は詮索をあきらめて首肯した。

「解り申した。調べてきますゆえ、こちらでお待ちくだされ」



 一昔前までは書類だったものを、近年は警察もIT化の波には逆らえないようだ。若いくせに端末の操作に慣れない真田は苦心して

データベースを検索し、フリーズしたところへ再起動の方法すらわからずキレて雄たけびを上げる。結局近くの婦警に手伝ってもらい、

苦心して調べたものの結果は芳しくなかった。

「……ありませんなぁ。女子にはあまりない名前ゆえ、データベースにないのならまず出されてはいないかと思われまする。

この子がどうかされたのか?」

 捜索願は出されていない。つまり、政宗の親は一晩帰ってこない娘を捜してはいない、ということだ。

「いや、捜していないならいいんだ。ジャマしたな」

 予想していた結果だが、それが現実のものとなるとどうにも後味の悪いものがある。これで、毛利医師の言っていた虐待されている

という疑惑が色濃くなってしまった。

 調べるべきものを調べたら、警察署などいつまでも居たくはない。真田の質問を黙殺した小十郎は短く礼を述べると、用は済んだと

ばかりにきびすを返した。

「あ、おい片倉! 何かあったらちゃんと通報しろよ! 勝手に手を出すんじゃねえぞ」

 『ブルー・ヘブン』のことも。そして、なにか事件絡みの匂いがする少女のことも。

「わかってるさ」

 背後からかけられた声へ振り向かずに手を上げて気のない返事をよこし、小十郎は警察署を後にした。



 留守番していろ、と言われても何をして待っていればよいものやら。そもそも、今頃はもうここを出ているはずだったのに。『一晩だけ

泊めてやる』という約束だったのが昼過ぎになった今でも未だ彼のもとにいることに政宗は所在無げな様子でソファに座り部屋の主が帰って

くるのを待った。

 大体、さきほど買ってもらった服の内容だって暫くここに居ることを前提にしたものではないのか。病み上がりで、体が辛いのは確か

であったから非常に助かるのだけれど。

(……そうだ、服を返しにいかなきゃ)

 可愛らしいワンピース。まつはくれると言っていたがやはり大切なものなら本来の持ち主の手にあったほうがいいに違いない。

(着替えようかな)

 借りた服を脱ぐのなら、折角だから買ってもらった服に着替えてしまおう。そう考えた政宗はワンピースのボタンを外しかけてリビングが

玄関から丸見えなのに気付いた。着替えている最中に綱元たちや小十郎が帰ってきたらイヤだ。

 とはいえ、風呂場で着替えるのもなんだし。家の中を歩き回るのも気が引けたので選びようもなく小十郎の部屋を借りることにした。

 部屋の戸をしっかり閉め、新品の洋服をベッドの上に広げた。制服を着たきりでいるのもそうだが、なにより下着を替えられるのが

嬉しかった。小十郎の気遣いに感謝しながら服に袖を通してゆく。

 例の、可愛いと言われたニットベストとショートパンツの組み合わせだ。部屋の隅に置かれた細長い姿見でおかしなところがないか

確認した政宗は、それを買ったときの会話を思い出して僅かに微笑んだ。こんな、醜い片目の女を可愛いと言ってくれる人がいるなんて。

 ついでに、服を買った店で売られていた、飾り用ではあるが服の雰囲気には合っていたために自分で買った黒い眼帯をずっとつけていた

医療用のそれと替えた。出来る限り、右目の傷を見ないようにしながら。

 脱いだ服を綺麗に畳み、空いたショップバッグに仕舞う。あとで小十郎が帰ってきたら洗濯をさせてもらおう。

 と、窓際のライティングデスクの上に小さな鉢植えがあることに気付いてそちらに目を向けた。

「なんだろ、これ……ハーブ?」

 素朴な素焼きの鉢に、小さな葉をいくつもつけた綺麗な緑。指先でつつくとふわりとハッカの香りが漂って、ミントの一種であることが知れた。

 あのいかつい男がハーブを育てているなんて意外もいいところ。人は見かけによらないものだとちいさく笑った政宗はデスクに肘をついて

鉢植えを眺める。

「結構カワイイ趣味をしているんだな、あいつ。……でも、ちょっとしおれてる」

 水遣りを忘れているのか、元気がない様子のミントは葉を力なく垂れている。いくら丈夫なハーブとはいえ、このままでは枯れてしまうだろう。

「可哀想だし、水でも遣ろうかな」

 肘をついていたデスクから離れ、水を取りに行こうとした、その時。

 窓から差し込む午後の日差しを鈍く反射する金属の輝きが政宗の目を射た。

「What?」

 ほんの少しだけ開いた、引き出し。厳重な鍵が取り付けられているそれ。

 勝手に見るのはよくない。そう思うものの、冷たい金属の色になぜかひどく興味を惹かれてしまった政宗はそっと引き出しを開けた。

 そこにあったものは。

「……!!」

 S&W M500 ハンターモデル。米国製の超大型リボルバー。

 政宗はその名称など知る由もなかったが、それがエアガンなどではなく本物であることだけは直感していた。

 手に取るとそれはずっしりと重く、映画やTVでしか銃など見たことのない彼女は驚愕の表情のまま見つめてしまう。

 あの人は。小十郎は、コレを使って一体何をしているというのだろう。

 警察や自衛官ではない人間が銃を使う、といえば目的はひとつしかない。

(やっぱり、あいつは……!)

 銃を持つ手が震えた。恐らくは、既に人の命を奪っているのに違いない。これは。

 ふいにそれがひどく重たく感じられて、グリップを握りなおした掌には汗をかいていた。

 銃という特性で、刃物などのように人を傷つけた痕跡はまったくない。だが、刃物と違ってこれは。



 ひとを、殺すためだけに存在するものだ。



 そして彼も、この銃を自在に使いこなすだろう彼もまた。

(冗談だろ)

 あんな、柔らかな笑みを持っている人が。

 あんな、優しい手を持っている人が。

 何故!?

 まっとうな仕事をしてはいないだろうと想像はしていた。でもまさか、こんなものを持っていたなんて。

 手にした銃から目が離せない。つや消しの冷ややかなガンメタルカラーは、政宗の掌の熱すら拒絶するようにただ、鈍く光を弾いていた。

 どれくらいそうしていただろうか。気が付くと呼吸が止まっていた。呼吸の仕方を忘れてしまったかのようだ。あえぐように肩で息をした

政宗はゆるく首を振って銃を机に戻そうとした。これを見たことは、誰にも話さないようにしよう。そう、決意して。

 あまりのことに強張ってしまった右手をなんとか銃から離そうと左手でグリップを掴む指に触れたとき、玄関の方でがちゃりと鍵の開く音

がして政宗は敵を見つけた小動物のごとき動きで顔を上げる。

「!」

(『ただいまー』)

 成実の声だ。動揺する政宗の耳には彼の能天気な声ですら今は恐ろしいものに聞こえ、慌てた彼女はあろうことか銃を取り落としてしまった。

 ゴトン!

 彼女は気付くすべもなかったが、弾が装填されていなかったのは幸いだ。下手をすれば暴発しているところである。

「あっ!」

 重量のあるリボルバーは、床に落ちて大きな音を響かせた。その音を聞きつけたのだろう、「誰か居るのですか!?」という綱元の声

と共に二人の足音が小十郎の部屋へ近づく。

(どうしよう……!)

 銃を拾って仕舞うことさえ忘れ、凍えた両手を握り締めていた政宗はドアが開く直前、やっと気付いて床の銃に手を伸ばした。

 が、時既に遅く。

 バン!

 体ごとドアをぶち開けた成実と、かがんで銃を拾おうとした政宗の目が合った。

「……! 政宗、そ、それは……っ!」

 驚愕に見開かれる目。床の銃と政宗を忙しく見比べて立ち尽くす成実の後ろから、綱元が遅れて部屋に入ってきた。

「……」

 成実とは対照的に、一切の表情を消して彼女を見据える。

「机の引き出しに入ってた。……なに、これ」

 答えなど言わずもがなであったが、訊かずにはいられない。「それは玩具だ」と言って欲しくて。

「いや、その……それは」

 まずい。まずい。えらいことになったぞこれは。内心の焦りがストレートに伝わってくる成実を押しのけ、懐に手を入れた綱元が進み出た。

 すう、と慣れたよどみない手つきで取り出されたのは、小ぶりで滑らかな表面を持つ自動拳銃。

 銃口を、動けずにいる政宗に真っ直ぐ向けて。

「見られてしまったからには、仕方ありませんね」

 かちり、と撃鉄の上がる音がいやに大きく響く。



「申し訳ありませんが……死んでいただきます」







To be continued...









厭なところで終わるなあ(苦笑)
ちなみに、綱元が持っている銃はSIG SAUER P228という自動小銃。「24」のジャック・バウアーが使っているものと同じです。
小型軽量で装弾数が多い(13+1)のが特徴。
……なんか、萌えの欠片もなくなってきましたよHighさん! 大丈夫か!?
そこはかとなくミリタリー好きなのがバレます(笑)