!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。

















Hitmen'n Lolita #7









 まつに洋服を借り、着替えた制服を部屋に置いた二人は小十郎が提案した通り買い物に出かけることにした。

 開店間もない百貨店は人もまばらで、愛らしいワンピース姿の少女と顔に傷のあるごつい男、の組み合わせは否が応にも視線を集めてしまう。

 これで政宗が制服を着たままであったらと思うとぞっとしない小十郎であった。

「俺は今の流行なんかは知らん。だから好きに選べ」

 そもそも、この年代の女の子と接するなんてまずなかった。大人の女性とは好みも違うだろう。服を買う店を選ぶのにも随分迷って、

結局いろんなブランドが入っている百貨店にしたのだ。ついうっかり、

「普段はどんなものを着ているんだ?」

などと訊いて、後悔してしまったものだ。

(……全然わからん)

 政宗が答えたいくつかのブランド名も全くの意味不明で、唯一わかったのはユニクロだけという始末。

 10歳という年齢差に改めて隔たりを感じる。

 まつの所で服を借りている間になにかあったのか、先ほどと比べて随分と態度を軟化させた政宗は時折笑顔など見せて、会話らしい会話が

生まれつつあった。

 少しずつではあったが、自分のことを語り始めた彼女の話から見えてくるのは、着る物にかなりのこだわりを持っているということ、料理が趣味

であるということ、幼い頃に習い事を沢山していたために茶道、華道から書道、礼儀作法とすべてかなりのレベルで習得しており本当に「お嬢様」

然としていること。

 だが、やはりというか家族の話になると突然掌を返したように黙り込んでしまう。

(まさか本当にどこかの良家の令嬢なのではなかろうか?)

 その割には、彼女の選ぶブランドはどちらかというと庶民派のリーズナブルなものであった。

「小遣いとかは貰っていなかったから」

 と言って、ではどうしていたのかと訊ねると即座に帰ってきたのがアルバイト、という答えで実家は決して裕福というわけではないらしい。

 あれでもないこれでもないと迷った末、政宗は通りかかった店先のトルソーに着せられていた上下一そろいに興味を示した。

 店内の商品を見て想像するところ、パンク・ロック系のちょっとハードな印象のデザインが売りのようである。

「試着してみるといい」

 小十郎を振り返った政宗に頷いてみせ、店員を呼んだ。



「お嬢様ですか? とても可愛らしい方ですね」

 試着室へ入った政宗を待つ間、所在なげに佇む小十郎に店員が話しかけてきた。二人の見た目からして、とても親子には見えないはずなの

だが恋人というには年齢が離れすぎているから不思議に思ったのかもしれない。

「……いや、姪だ」

 そう答えながら、俺はそんなに老けて見えるのかと軽くショック。あんなにデカい娘が居るほど歳じゃない。

 そんな小十郎の内心のつぶやきを察したのか、曖昧な笑みを浮かべた店員はそれきり話しかけては来なかった。

 そうこうしているうちに、試着室のドアが細く開いて中から華奢な手が小十郎を手招いた。

「どうした。外へ出てきたらいいだろう」

「うん……」

 中から聴こえてきたのは恥ずかしそうな、蚊の鳴くような声。

「あ、おつかれさまでしたー。いかがですかぁ?」

 先ほどとは別の店員が二人を見止めて近寄ってきた。

「あの、ちょっと……」

「わあ、お客さんお似合いですぅー! ほら、カレシさんにも見せてあげましょうよ」

「いや、その」

「だいじょうぶですよぉ。お客さんスタイル良いから、すっごく綺麗に着てくださってます」

 こういったことは苦手なのか、なかなか出てこようとしない政宗をドアの隙間から見て褒めちぎった店員はそのまま押しの強いことに彼女を

連れ出してしまった。

 さらりと言われた「カレシ」という言葉に思わずどきっとする。

「こ、こんな感じ……」

 店員に引っ張られるようにして試着室から出た政宗の姿に一瞬、小十郎は絶句した。

 タイトフィットなシルエットのブラウスを第二ボタンまで外し、ルーズに細い黒ネクタイを締めている。その上には胸下まで開いた、ざっくりとした

風合いの薄茶色のやはりぴったりとしたニットベスト。ボトムスは黒レザーのショートパンツで、飾りと思しきサスペンダーが両足に垂れていた。

制服に着ていたオーバーニーソックスはそのままであったが、それもパンツの短さに合っている。

 多分に身体の線を強調するデザインで、まさかここまでとは思っていなかったのだろう。恥ずかしそうに俯いた政宗は鏡で自分の姿を確認

しようとすらしない。

「これ、細身で胸のある方じゃないとあんまり似合わないんですよー。お客さん、もう完璧です。すごいわぁ! わたし、こんなに似合う方見るの

初めて」

 わざと胸を強調するようなカッティングのベストに、小十郎はなるほどと変に感心する。確かに、ある程度なければラインが崩れるに違いない。

(いや……なんていうか)

 ものすごく、可愛い。

「そう思いませんかぁ?」

 いきなり店員に水を向けられ、うっと言葉に詰まった小十郎だがちらと視線を向けてきた政宗と目が合い、ちいさく笑って頷いた。

「とても、よく似合っていると思う。それでいいんじゃないか」

 まつに借りたワンピースのような清楚な装いもそれはそれで愛らしかったが、どちらかというとボーイッシュとセクシーの混じる絶妙なデザイン

がひどく彼女に似つかわしいように思える。

「そうかな……」

「可愛いぞ」

 率直に述べた感想であったのだが、ストレートなその言葉に政宗の頬が紅くなる。

「サイズもピッタリですし、とってもステキですよぉ」

「じゃあ決まりだな」



 結局、それの他にカットソーとスキニージーンズ、パジャマや下着類を加え、買い物はかなりの点数になった。

 女の子は何かと物いりなのである。

すっかり恐縮してしまった政宗に小十郎はいいんだ、と微笑してみせる。

(綱元あたりが見たら「すっかりほだされているじゃありませんか」とか言って笑うのだろうな)

 実際、自分はなんて甘いんだと思うのだが彼女が笑顔を見せてくれるのがなんだか不思議と嬉しいのだった。

「あの、ごめんなさい……。俺、パジャマと下着だけでいいと思っていたんだけど」

 買い物をしているうちに昼時になり、診療所へ行く前に食事をしようと入ったオープンカフェでホットケーキをつつきながら、心底恥じ入ったように

政宗は言った。

 実は、率先して彼女に服を買い与えたのは小十郎なのである。

「いや、構わないんだ。普段はあまりものを買わないのでな。久しぶりの買い物は楽しいものだ」

 こちらもサンドイッチをかじりながら。

 晩秋が近づいているとはいえ、昼間はまだ暖かい。穏やかな日差しに「いい天気だなぁ」と目を細める小十郎に意を決したように尋ねた。

「訊いてもいいか?」

「ん? なんだ」

「小十郎は一体何の仕事をしているんだ?」

 見た目からして、とても普通の会社勤めをしている人間には見えない。先程の買い物も、総額合わせると結構な額になるはずだがまったく

意にも介せず現金で支払っていたあたり、経済的には豊かなのだろうと予想できた。それに加えていかにも怪しげな住まいと同居人。

 そして何より、常人離れした身のこなし。空手の黒帯もちである自分の技を悉く防ぎ、それどころか当て身などという上級技を使ってきたのだ。

 とある予測を底に沈めてぶつけられた質問に、小十郎はどう答えたものか困ってしまった。とてもではないが本当のことなど言えたものでは

なかったが、だからといって下手な嘘をついて馬脚を露すのは何よりも避けたい。

(「普通の、しかもあんな年端の行かない女の子が関わっていい人間ではないのですから。……互いに深入りする前に」)

 そんなことはイヤというほど解っているさ。

 昨夜、かかわりあいになるなと警告してきた綱元の言葉が脳裏をよぎる。世の中には、ヤクザなんかよりももっと危険な世界が存在するのだ。

 この、平和なこと極まりない国でさえ。

「……自営業だ。企業コンサルタントをしている」

 そのような仕事も確かにしている。ただし、相手は一般企業ではないのだが。

「ふうん……じゃあ社長さんなのか」

「まあ、そういうことになるな」

 カフェオレボウルを両手ではさむように持ち、湯気をあごにあてながらまだ不審気な視線を向けてくる。

「昨日の夜のあれ、なに?」

 どうやら当て身のことを言っているらしい。

(ああ、そうか。普通の人間ならあそこでボコられてるよな)

「あれは『当て身』という古武術の技のひとつだ。……趣味で道場に通ったことがある」

「合気道とかで使うやつ? ……そうだったんだ。今まで、俺の蹴りを止めた奴って師匠しかいなかったから驚いた。強いな、小十郎は」

 うまく信じてくれたようだ。自分も格闘家のひとりだからなのだろう、感心して口許に笑みを刻む。

「ぜひ一度、ちゃんとした試合をしてみたい」

「そうだな。いつも平手をくらっているのではたまらん」

「それは……悪かったと思っている。でも、そっちだって」

 ショーツの柄で呼んできたり、ブラの外れた胸を見たりするから!

 とは流石に言えない。思い出してしまったのか、白い頬に紅葉を散らした政宗はワンピースの胸の辺りをきゅっと押さえる。

「すまなかった」

「いや、もういいんだ。迷惑掛けてるのは俺のほうだし」

「……」

「……」

 暫し、お見合いのように二人とも俯きがちに沈黙してしまった。

「……さて、そろそろ行くか。診療所も開いているだろう」

 なんだか若い女の子とデートでもしているような錯覚に陥りかけ、小十郎はしっかりしろ自分、と心の中で頭を振った。

 なに、勘違いしかけてるんだ自分は。



 果たして、休診の札がかかっていた診療所は診察を開始していた。

「来たか。片倉、貴様はそこで待っておれ。もういちど診察させてもらう」

 ずいぶんと小ぢんまりした診療所だ。待合室など、六畳ほどもあるまい。看護士の姿も見当たらず、独りですべてをやっているようだ。

「そのまえに毛利、悪いんだが昨夜のことを彼女に説明してやってくれないか」

「何のことだ」

「だから、往診に来て、お前彼女のパジャマのボタンを全部外しっぱなしにしただろうが」

「そのことか。……貴様が大人気なくも恥ずかしがって毛布を掛けてしまったから戻せなかったのではないか。我のせいにするでない」

 そっけない口調でそれだけ言うと、さっさと政宗を診察室へ連れて行ってしまった。

(一瞬で終わりかよ!? どいつもこいつも、俺の苦労も知らないで……!)

 しかも、恥ずかしがって、って。

 さり気なく馬鹿にされたのがまた悔しい。だが普段から相当の無理を聞いてもらっているために怒るに怒れないのであった。



「ふむ。熱は下がっておるな。どこか、痛んだり苦しいところはないか?」

 熱を測り、聴診器を当て暫く普通に診察をしたあと。検温器をしまった毛利医師は緩めた襟を元に戻す政宗に訊ねた。

「……ないのだな。薬は5日分出しておくから、毎食後飲むように。ところで」

 と、政宗の腕をとって袖を捲り上げた。

「What?」

「この傷について、我に申したきことはないか」

 捲られた袖から覗いた細い腕の内側。ちょうど肘の内側のあたりに、幾つもある小さな火傷跡を指して毛利医師は元々鋭い目をいっそう

厳しく細めた。

 丸い、小さな火傷跡。もうすっかり治って跡を残すだけのものから、いまだ生々しく焼け爛れた傷口を曝すものまで、右腕だけで十箇所は

あるだろう。

「……別に」

 厭なものを見られた。そんな表情で射抜くような視線から顔を逸らす。

「ならば、こちらから言おう。これは、煙草を押し付けられた火傷の跡だ。昨夜、これのほかにも全身に打撲や切り傷が見られた。

……そなたは何者かに暴力を受けているのではないか?」

「なんでもない。自分の不注意でつけただけだ」

 煙草の火は、見た目に反して700度という高温を持っている。

 ふつう、自分でこんなことはしない。まして、煙草など吸わない未成年の彼女である。

「隠す必要はない。これは、明らかに傷害だ。ちゃんと言えばしかるべき保護が受けられるのだぞ」

Persistentし つ こ い な! なんでもないって言ってるだろ」

 触れられたくないことなのか、やや声を荒らげて否定する。だが、前髪の落ちかかった左目は怒りよりも悲しみの色が濃かった。

「何故に庇う? 黙っていれば解決するとでも思うておるのか」

「庇ってなんかいない。これは、先生には関係のないことだ。……もう、いいか?」

 軽く掴まれていた腕を振り解くように取り戻し、素早く袖を戻した政宗は診察室を出て行ってしまった。

(黙っていれば解決するなんて、思ってねえよ。でも、警察に言ってしまえばあの人はまた……)

 バシ、とやや乱暴に閉じたドアに寄りかかり、俯いた政宗は毛利医師の言葉を頭の中で繰り返していた。

 右目を覆う眼帯に、そっと手を触れる。もうとっくに治っているはずの傷が痛んだ気がして、柳眉を顰めた。

「どうした。診察はもう終わったのか?」

 診察室の会話は聞こえてこなかったが、政宗の様子から何があったのかを推察するのはわけもないことであった。今にも泣きそうな顔で

ドアに寄りかかる政宗に敢えて能天気そうな口調で声をかけ、小十郎はそっと手を差し出した。

「さあ、帰ろう」

「なんだよ、俺はガキか」

 手なんか繋いでやらねえよ、このエロオヤジ。

 さりげない小十郎の優しさが嬉しくて、涙を零しかけた目を忙しく瞬いた政宗は差し出された手をぱしっと払いのけるとドアから背を離した。



 雑居ビルへ戻り、荷物を置いた小十郎は政宗に所用があるから留守番をしているように言うと再び出かけていった。

「もうすぐ綱元たちが帰ってくるはずだから、それまで誰かが来ても絶対にドアを開けてはいけない。テレビを見ててもいいし、そこの本も好きに

読んで構わんが、電話が鳴っても無視するんだ。いいな?」

 つまり、誰もいないように装え、と言い含めた小十郎に頷いた政宗ひとりを後に残すのはやや不安があったが、あの二人が帰っていないのでは

仕方ない。

 そんな小十郎が足を向けたのは、昨夜綱元に話したとおり警察署であった。

 彼らのような人間にとっては天敵とも言える警察。入り口に立つ警官を一瞥し、ポケットから携帯を取り出した。

 呼び出し音が暫く続いた後。

『よう、久しぶりだな。とうとう性根を改めて出頭する気になったのか?』

 受話器から聴こえてきたのは、若い男の声だ。

「何の罪だ。証拠もないのに人を勝手に犯罪者にするんじゃねえよ。今、出られるか?」

『あぁ〜ん? 叩けばいくらでも埃が出るだろうが。何処にいるんだ』

「署の前だ」

 電話の相手は「わかった。ちょっと待ってろ」と答えると電話を切った。



 ちょっと、と言った割には随分と待たせる。時折ちらちらと視線をよこしてくる入り口の警官を厭そうに避けて煙草に火をつけたとき、中から

一人の男が現れた。

 警官が「お疲れ様です!」と敬礼しているあたり、それなりの地位にある人間らしかったが、どこからどう見ても、警察の人間とは思えない

外見であった。

 ツンツンと立てられた髪は銀髪。精悍な体つきに纏う服装は非常に派手なうえに上着は袖も通さず肩に引っ掛けただけという格好。

 何よりも目を引くのが、政宗とは逆の左目を覆った鉢金のような眼帯。

「長曾我部。悪いな、忙しいところジャマして」

「わざわざ鬼の巣までお出ましとはな。何の用だ」

 この街を管轄する警察署、暴力団専門の第四課刑事・長曾我部元親といえば『鬼』と綽名される敏腕刑事である。

 銜え煙草で手を上げた小十郎に元親は黙って携帯灰皿を取り出すとふたを開けて差し出してきた。路上に描かれたマークを指差して。

「路上喫煙は禁止だ」

 持っている、と胸ポケットから取り出したそれに短くなっていない煙草をもみ消すと、小十郎は苦笑して元親をまじまじと眺めた。

「昔はヤクザの組長もすっかり公僕だな」

 現在は鬼長曾我部の呼び名を持つ彼であるが、実は西日本でも有数の任侠一家、長曾我部組の組長という前歴を持っている。

 数年前、織田組に壊滅させられて以来、何を思ったのか警察官へ転身という今までとは真逆のことをやってのけた男なのだ。

 だが、そんな前歴をかわれて第四課刑事へ抜擢されたのは言うまでもない。蛇の道は蛇、なのである。

「何とでも言え。オレは心を入れ替えたんだよ」

「そういうことにしておいてやるよ」

「……で? 人を呼び出しておいてカラむだけかよ。ヒマじゃねえんだぞこっちも」

 ヤクザの親分なんて商売をしていた奴が、そう簡単に足を洗えるものか。そういわんばかりにニヤリと口許をゆがめた小十郎に元親は軽く

舌打ちして、何の用だと繰り返した。








To be continued...









おデートvv 書いててめっちゃ楽しかったです。なにこの初々しさ! そして微妙に接近し始める二人。
政宗が試着した服はHighの持ち物が混じっていたりして。最近の若い女の子の趣味なんか知らん(笑)
TRALALAとか似合いそうな気がする。裏のにょたむね様は確実にアルゴンキンとセクシーダイナマイトロンドン。
同じ人を書いているはずなのに雰囲気が全く違うっていうのは面白いものです。
刑事長曾我部(コロンボ風に)。激しくキャラに合わない気がするのは気のせい。彼も今後ちょこちょこ出てきますv