!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。

















Hitmen'n Lolita #4









「クライアントへ報告に行くのですが。失敗した以上、次の手を打たなければなりませんから」

 明日はヒマか、と訊いた小十郎に怪訝な声音で返され、最優先事項が何であったかを漸く思い出した。

「大丈夫ですか? しっかりしてくださいよ全く……まさか彼女に気があるとでも言うんじゃないでしょうね。先程の様子といい、貴方らしくもない」

 大体、先日付き合い始めた彼女はどうしたのですか? ……確か、60歳とかいう。そんなにとっかえひっかえしているとそのうち刺されますよ。

とさらに続ける。

「……別れた。今の話に関係ないだろ」

 思い出したくなかったのか一瞬、厭な顔になって。

「何を言い出すのかと思えば。お前、恋愛小説の読みすぎなんじゃないのか? 馬鹿馬鹿しい」

 この、二次元恋愛狂が。

 言い合いになれば二倍三倍になって返ってくることが解っていたから、心の中で忌々しげに毒づく。ひとを無節操な色情魔のように言わないで

欲しい。

「そこまで言っていませんよ、冗談です。やだなぁ真に受けるなんて」

「……!」

 なんで考えてることが解るんだお前は!

 長いこと組んで仕事をしている相棒バディであるが、時折その正体不明な部分に恐ろしくなる。

「綱元。お前って奴は……」

「?」

 にこにこ。相変わらずの表情。笑顔とは裏腹な、眼鏡の奥の冷たい光。どこぞの国の、通称微笑の貴公子に似ていなくもない。

 く、食えない奴……!

 しばし、沈黙が横たわる。二人の間にある空気は微妙に張り詰め、手を伸ばせばピリ、と触れられるのではないかと思えた。

 これ以上何かを言えば、話はもっと変な方向へ転がってしまうに違いない。この、人当たりがいいくせにその実人心を玩ぶのが大好きな変態に

自分で遊ぶ口実を与えたくなかった。

 咳払いをひとつして、逸れた話を続ける。

「話を戻すぞ。

明日の報告は悪いが綱元、お前一人で行ってくれないか? 成実は補講で学校へ行くのだろうし。本当は、顔を見せてやったほうが良さそうだが

進級がかかっているのなら仕方あるまい」

「それは構いませんが……小十郎、貴方は何処へ?」

「警察だ」



 なんだかんだでもう明け方近い。『眠らない街』などと呼ばれる場所で、言葉どおり常に喧騒の中にあるのは間違いないのだが、夜明け前の

この僅かな時間だけは物音が絶える。

 白み始めた空に、店から出されたゴミ目当てのカラスの鳴き声だけが響く。

 その、刹那のまどろみに沈む時間を小十郎は特に好んでいた。

 熱いコーヒーを飲んだとはいえ、政宗同様雨に打たれたために実は寒気を感じていた。いい加減眠りたかったが、風呂に入らぬまま横になれば

自分だって体調を崩しかねない。いかに強靭な肉体を作っていようと、無敵というわけではないのだから。

 風呂上りの身体にスウェットパンツとTシャツというラフな格好で髪を拭いたタオルを首にかけ、ソファで寝るための掛け布を取りに自室へ戻った。

 外灯も、目に痛いほどのネオンサインの光も消え、薄青い静けさの中、傷だらけの少女は穏やかな寝顔で眠っていた。瞼を下ろせば、歳よりも

さらに幼く無防備に見える。

(『……この者は恐らく、日常的に虐待を受けている』)

 ふいに毛利医師の言葉が脳裏に蘇り、痛々しいことだと眉を顰めた。

 まさか、この眼帯も虐待のために負った傷なのだろうか?

 見た目と言葉遣いから「まるでヤクザ」と恐ろしがられることが多い小十郎であったが、意外と情に厚い面を持っているのだ。年端の行かぬ少女

がいわれなき暴力を受けているのならば、なんとかして助けてやりたいと思うほどに。

(深入りは、しない。しかし、見捨てるようなことはしたくない)

 出会ったのは偶然だ。けれど一旦関わってしまったのなら、知ってしまったのなら。

 どうして捨て置くことが出来ようか。

(だが忘れてはならない)

 その決意が自分の稼業とは決して相容れないことは解っていた。必要以上に関われば、彼女自身が危険に曝されるのだ。

 ライティングデスクの引き出しのひとつ、堅固な鍵のかかったそれを開き、中から愛用の銃を取り出す。

 S&W M500 ハンターモデル。米国製の超大型リボルバー。威力とそれに伴う反動があまりに大きすぎるために常人では実用に耐えない、

世界最強の拳銃。

 冷たく重いその感触は既に手と一体化している。静止した状態なら目を瞑った上に逆利きの右手で撃ってでも目標に命中させる自信があった。

 もちろんこれはエアガンや模型の類ではなく、ほんものの、殺傷能力のある、実銃だ。

(殺し屋に情けは無用、か……?)

 これを使い、幾人もの命を奪ってきた。いまや裏社会で『片倉小十郎』と『鬼庭綱元』の名を知らぬ者はない。大物と呼ばれる実力者達にすら

怖れられ、また畏れられてきた男たちである。

(……ハ。今更だな)

 妙に弱気になっている己を鼻で笑い飛ばした。今、目の前で眠る少女が路傍の花ならば自分は虎の歩みに等しく、しからば踏み潰さぬよう避け

れば良いだけのこと。

 暫し銃を手に物思いに耽る小十郎の背後でもそ、と動く気配があった。

「ぅ……ん……」

 ちいさく唸って、目を覚ましかけているのか寝返りを打つ。掛けてあった毛布が床に落ちる音がした。

「む、起こしてしまった……」

 銃を引き出しへ戻し、振り向いたところで言葉が止まった。

「か……!?」

(し、しまった!)

 小十郎のほうを向くように横向き寝になった政宗の寝巻きが、ボタンを外したままだったことに肝をつぶした。

 そういえば。先刻毛利医師に彼女の傷を見せられたとき、いきなりのことに驚き慌てて毛布を掛けたために直す暇もなかったのだ。

 むに、と綺麗な谷間を作った胸に視線が行きかけ、ハッとして目を逸らす。

 まずい。この状況は、非常にまずい。いま、彼女が目を覚ましたら……!

(気付かれないようにボタンを留めなければ……っ)

 着衣を乱されていて、しかも自分が傍に居る。どう見たって、誰が見たって、ある目的しか思いつかない。

 今となっては、わざわざ小十郎を呼んで傷を見せた彼の親切(?)が恨めしい。

 極力気配を殺し、足音を消してベッドサイドに膝をつく。仕事で、標的の背後に忍び寄りゼロ距離射撃をする時でさえここまで緊張はしない。

僅かに震える指先を彼女の肌に触れぬよう慎重に、ひとつずつ留めてゆく。

(……うっ)

 ガキに興味はない、と言ったものの。こんな状況で見せ付けられる姿態は暴力的なまでに彼の男子たる部分を刺激する。高校生ともなれば、

身体的にはほぼ大人と同じだ。それに加えて類稀な美しさと警戒心のない表情。変な気持ちになるなというほうが無理である。

 トドメとばかりにふわ、と鼻腔を掠めた石鹸の香りにくらくらするものを覚えながら鋼の自制心で作業を続けた。

(あ、あと三つ……! 頼む、今だけは目を覚まさないでくれ!)

 着衣を直そうとしている小十郎の姿は、一瞬その逆にも見える。この状態で意識が戻ろうものならもう弁解の余地はあるまい。

 が、そんな彼の思いもむなしく。

「……ん……ふわぁ……、!?」

「……!!!」

 寝ぼけた独つ目を瞬いて、ちいさな欠伸をした政宗が目の前に居る小十郎と、なかばボタンを外され下着の覗いた自分の胸を見下ろし、声に

ならない悲鳴を上げた。



 夕方の弱い日差しの差し込むリビング。付けっぱなしのテレビ。ボタンの弾け飛んだブラウスと、自分を組み敷き見下ろす男の歪んだ笑み。

 屈辱と怒りで頬を伝う涙。なのにどうしようもなく煽られる、熱。

 そして、激しい衝撃と鈍い痛み。



 瞬時にしてフラッシュバックする記憶。大きく見開かれた瞳が急速にその色を凍りつかせてゆく。

「……ま、待て。これは誤解だ。俺はただ」

「死ね」

 先ほどまで熱を出して眠っていた人間とは思えない身のこなしでベッドの上に立ち上がった政宗は、感情の篭らない声でそう呟くと、ひと動作で

右上段回し蹴りを小十郎の頸部に放つ。

「っ! おいコラ、人の話を……うわ」

 危うく頚動脈を蹴りつぶされかけ、すんでのところで左腕で受けたが息をつく間もなく鳩尾を狙って素早く叩き込まれる正拳突き。それも膝を上

げたガードで受け流した小十郎だが、虚を衝かれたことと予想外の威力に軽くよろめいたところへ打ち下ろすような肘の追撃が入り、さらに体勢を

崩す。

 それを好機と見たかベッドから飛び降りた政宗は、ふッと鋭く息を吐くと軽く身を沈めた。

(後ろ回し蹴り……!)

 見覚えのある動作の癖。最初に出会ったときに止めた、あの大技だ。こんな狭い室内でアレを使おうだなんて、冷静な状態なら決してしないは

ず。外してしまえば致命的な隙をみせることになるのだ。

 これほど苛烈な攻撃を繰り出していながら、彼女の目は何処も見ていないかのように虚ろで冷たい光を湛えたまま。据わっている、というのとも

違う。小十郎とて数多の修羅場をくぐってきた猛者であるが、このような目をした者は見たことがない。ぞく、と背筋に戦慄が走った。

 窓から入る幽かな曙光が音もなく攻防を続ける二人の影を床に落としていた。それを頭の隅で美しいな、と思ったのは手練れの殺し屋である

彼の余裕であったか。

「!!」

 強烈な蹴り技に備えようと、後ろに退くのではなく懐に詰め寄り政宗を抑える構えに入った小十郎の予想を裏切って彼女のすらりとした足が

ほぼ180度に高く振り上げられた。

(かかと落とし!? ヤバイ!)

 今までの技を見るに、予想は出来るはずだった。彼女は相当の空手使いだ。蹴り技を得意とするなら、当然かかと落としも使えるはずなのだ。

 しかしまさか、そこまでとは。

 しかも、回し蹴りを放つと見せかけて予備動作をフェイントに使うなんて。

「止めろ!」

 怒りに任せて殴ってくるのならまだ解る。そしてそうなら避けるつもりはなかった。疑わしい真似をしたのは確かで、しかも一瞬とはいえ劣情を

抱きかけたのは間違いないのだから。だが、これは何かがおかしい。目が、普通じゃない。

 止めなければ、なにか恐ろしいことが起こる。

 本能的にそう悟った小十郎は凄まじい勢いで落ちてくる踵を避けるのではなく、逆に真正面から片腕で受けた。

「……すまん」

 二人の動きが止まった刹那に、ちいさく囁かれた言葉は許しを請うもの。

 転瞬、技の勢いをそのまま返したような衝撃が政宗の両肩を襲う。

「Shit!」

 踵を受けた腕を素早く引き戻し、両掌で押し出すように壁に向かって彼女を突き飛ばしたのだ。

 古武術の技のひとつに、当て身というものがある。相手の技を受け止め、その力を利用して弾き飛ばす、いわば双方を守るための技術だ。

 勢いがありすぎたために手加減ができず、壁へ強かに背を打ちつけた政宗の表情が痛みに歪んだ。

「もう止めるんだ。怪我をする」

 それでもなお戦意を失わないのか、ふらつきながらも壁から身を離そうとした政宗へ一足で間合いを詰めた小十郎がその長身を利用して壁に

押し付けて拘束する。両手首を掴まれ、膝を押さえて完全に動きを封じられた政宗は激しく身をよじるが力では到底敵わない。

「ヤメロ……放せ!!」

「わかった、わかったから落ち着け」

「ちくしょう、俺に触るんじゃねえッ! この変態野郎が!」

「だからちょっとは大人しく……」

「厭ああああっ!!」

 やっと正気に戻ったはいいが、今度は半狂乱で喚き散らし始めた。放してやろうにも、ばたばたと暴れるこの状況では手を放したが最後、再び

攻撃されかねない。

(やばい、綱元と成実に聞かれたら……!)

「やっぱりテメェもそうなのかよ!? なんでだ! 信じたかったのに……むぐっ!」

 仕方なく、細い両手首を片手で掴み上げ、喚き続ける彼女の口許を空いたほうの手で抑えた。噛み付かれるかも、と思ったが今はそれどころ

ではない。強硬な手段に出られ、怒りに燃える独つ目に怯えの色が滲む。

 声を封じる直前に叫ばれた言葉に小十郎の胸が痛んだ。この娘は一体、どれだけの非道を受けてきたというのか。

 そうやって暫く、激情が治まるのを待っているとようやく落ち着いてきたらしく、じたばたする手足が動きを止めた。同時に零れる、ひと粒の涙。

「説明しなかった俺が悪かった。……さっき、医者に診せた時にボタンを外しっぱなしにしていったのを留めてやるつもりだったのだが……

却って怖がらせてしまったようだな」

 そのひと粒に誘われたように泣き出した彼女の頬を、手首から外した左手で拭ってやると困ったようななんともいえない表情で目を伏せた。

「今から手を放すがもう暴れたり叫んだりするな。……いいな?」

 口許を押さえられたまま、わずかに顎を引いて承諾の意を示す。

「信用してもらえるとは思ってねえ。明日、その医者のところへ行こう」

 手を離され、ごしごしと目を拭う政宗。まだ疑わしげな表情はそのままだったがそれでも一応襲おうとしていたわけではないことは理解したらしい。

「明け方近いがもう一度眠るといい……あ」

「Heyどうした……!」

 未だ開けっ放しだった彼女のパジャマ。その素肌を隠す水玉柄のブラのフロントホックが、先程の激しい動きのせいで外れていた。

 図らずもそれを直視してしまった小十郎の顔がぐあ、と紅くなる。

「やっぱり死ねっっ!!」

 バッシ――ン!!!

「ぐおぁっ」

 片手で胸を庇った彼女の、恐るべき速度と野球投手並みの手首のスナップが利いた強烈な平手打ちが小十郎の頬に炸裂した。

 ご丁寧なことに、街で殴ったのと同じ場所を。





To be continued...









刑事出てこなかった! やべ、予定よりも長くなりそうだ……。
そして青年誌のようなちょいエロ表現。YJとかみたい(笑) 巨乳萌えv かすがたんハァハァ(何)
政宗の過酷な過去の片鱗が垣間見えたりして。あんまり気分の良くないものなんで、書くかどうか迷ったんですけれど。
格闘技好きなので、古武術とか資料集めが楽しかった〜v