!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。

















Hitmen'n Lolita #3









 自分が怒られたわけではないのだが、泣く子も黙る小十郎の怒号にきゅっと首をすくめた政宗は、この状況が自分のせいであると気づき

恐る恐る口を開いた。

「あ、あの! 小十郎と俺はそういう関係なわけじゃなくて! ……その、チンピラに襲われているのを助けてもらったんだ。で、俺が勝手に

ついてきた」

 かなり端折った説明だったが、ここで細かい状況を言う方が混乱を呼ぶだろう。まさか逆にチンピラを殺しかねないところだったなどとは

言えようはずもない。

「ふぅん……もう名前で呼び合う仲なんだ?」

「成実! いいかげんにしろ」

 相変わらずからかう語調の成実に再び俯きがちになる政宗。それを先ほどよりは穏やかに(とはいえ、やっぱり怖い)嗜める小十郎へ

綱元が向き直った。

「そこのお嬢さんを助けたのはいいですが小十郎、何故にここへ? もうこんな時間だ。親御さんも心配しているでしょう。家まで送って差し

上げましょうか」

 こんな野郎ばかりの暮らす部屋に年頃の女の子が一人、こんな格好でいるなんてあまり宜しいことではない。この娘には危機感という

ものがないのか。気付かれないように少女を窺う。

 背丈のわりに痩せすぎなのでは、と思える痩躯を包んだ大きすぎるパジャマ(上着のみ)の裾をしきりに引っ張って細い足を隠そうとして

いる。よく見ると、打撲痕や切り傷の類が無数にあって、それを目ざとく見出した綱元は僅かに方眉を上げた。

(なんでしょうねアレは)

「それが、ちょっと事情があって帰るところがないらしい。こんな街中に放り出しておくのも後味が悪くてな」

「帰るところがない、ね……」

「とりあえず今夜だけでも」

「フム。ですが――」

「いいんじゃねえの? 帰るところがないっていうのなら、今日だけなんてケチケチしないで置いてやれば」

「そういう問題じゃないでしょう。相手は未成年ですよ、成実。それに私たちは」

 言いかけた綱元の言葉を遮るように、申し訳なさそうな声が割って入った。

「……迷惑かけて悪い。すぐ、出て行くから」

 哀しげに微笑んで、制服を干していた風呂場へ戻ろうとして――。

「っ、おい水玉!」

 ふらり、と姿勢を崩した政宗を慌てて駆け寄った小十郎が床に倒れる前に抱きとめた。腕にかかる体重は羽根のように軽い。

 苦しそうに眉を顰めた額に手を伸ばしかけ、一瞬躊躇うものの確かめないわけにも行かずそっと触れてみると風呂上りというだけでは

ない熱をもっている。

「綱元、俺の部屋に寝かせるから布団を整えてくれないか。あと成実、先生を呼べ」

 無言で頷いて奥の部屋へ向かう綱元。携帯を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた成実は少女を抱き上げて部屋へ運ぶ小十郎の

背中を見遣って、「……水玉ってなに? あの子、政宗じゃないの?」と呟いた。



 呼び出し音が十、鳴ったところで寝起きと思しき不機嫌な声が電話に出た。

「……毛利診療所だ。時間外診療は受け付けておらぬ」

「あ、先生? おれだよ、おれ。悪いけど急患なんだ。すぐ来てくれない?」

「おれとは誰のことだ? 詐欺なら間に合っている。切るぞ」

「冗談言ってないで! 片倉んとこの、成実!」

「わかっておるわ、愚か者め。……急患とは何だ、撃たれたのか」

「いや、怪我じゃない。なんだろ、急に倒れて……熱があるみたいでさ」

「? 風邪であろう。市販の薬でも飲んで寝ておれ。貴様らならば診る必要もあるまい」

 医者とも思えぬ口ぶりの、毛利と名乗った男はそう言い放つや電話を切りそうになって成実は焦った口調で。

「待って先生、倒れたの小十郎でも綱元でもないんだ。高校生の女の子!」

「……女の子?」

 その言葉に些か興味を惹かれたらしい。電話口でごそごそやる物音が聞こえると、

「五分で行く」

 一方的に切れてしまった。



 電話の声の調子から、出るまで寝ていたのは間違いないのだが言葉通り五分でやってきた毛利という医者はネクタイこそしていない

ものの、きっちりと身なりを整えそのまま診療室に居てもおかしくない格好で、低血圧傾向で寝起きの悪い成実などは「この人いつ寝て

るんだよ……」と半ば呆れたように首を振ったものだった。

 往診鞄から聴診器を出し、ベッドに横たえられた政宗の襟元を開きかけて、

「何を見ておる。気のきかぬ奴らよ」

と、三人を部屋から追い出してしまった。



「大丈夫かなぁ。なーんか、えらい痩せてるし、何も食べてないんじゃないのあの子」

 毛利医師が診察を始めてから暫く。ソファに座りキッチンから持ち出した炭酸飲料のペットボトルを傾ける成実と壁にもたれて腕組みを

している綱元に対し、咥え煙草で檻の中の熊のごとくリビングを歩き回る小十郎。

「灰が落ちます。少しは落ち着いたらどうです」

 突然意識を失って倒れた政宗を抱きとめたときの、あの軽さと細い肢体の頼りなさ。大の男を蹴り一発で黙らせる彼女を見ているだけに、

ギャップの大きさが俄かに信じ難い。そんな力をあの小柄な体の何処に持っているというのだろう。

 倒れた瞬間、腕の中でうわごとのように、つぶやくように「こじゅ……」と呼びかけられたのが妙に心に引っかかる。ただ、自分を受け止め

た相手の名を呼んだだけなのに。

閉じられる寸前の、縋るような目。それが、小十郎を落ち着かなくさせていた。

まったく、あの小娘に関わってから自分はおかしいのではないだろうか。

「ん? あ、ああすまん……」

 灰が崩れかけているのに、テーブルに載った灰皿へまだ長いままの煙草を押し付け成実の隣へ座る。

「家族の者へ連絡した方が良いのではありませんか? 帰るところがない、なんていっていますが保護者はいるのでしょう」

 何らかの病気であったりすれば、行きずりの関係でしかない三人では面倒をみきれない。

 まったくもって常識的な綱元の発言に、それもそうだと頷いて政宗の鞄を取り上げた。他人の、しかも女の子の鞄を勝手に覗くのは気が

進まないものだが致し方ない。携帯なり、生徒手帳なり素性の知れるものを探さなければ。

 と、鞄を開きかけたその時、奥の扉が開いて白衣姿の毛利医師が顔を出した。

「片倉、ちょっと来い」



 急遽政宗を寝かせた小十郎の部屋は、リビング同様あまり物のない殺風景なものである。

 スチールロッカーのような小さなクローゼットと大量の本が載ったライティングデスク、あとは質素なベッドだけという調度はおよそ装飾性

というものを無視しており、シンプル・機能美といえば聴こえはいいが要するに実用主義である彼の性格を反映していた。

 そんな室内で唯一といっていい、飾りらしいものといえば窓辺に置かれた小さな鉢植えひとつだけ。

 その、ベッドの上に横たわっているのはぐったりとした少女である。

「病状はどうなんだ」

 身じろぎ一つせず、死んだように眠っている政宗を見下ろして診療道具を仕舞い始める毛利医師に尋ねる。

「熱のほうは心配ない、ただの風邪だ。朝になったら薬を処方するから取りに来い。倒れたのは疲労の所為だ。精神的肉体的に何らかの

過負荷がかかったらしい。軽く栄養失調の気もある。ゆっくり休ませた後になにか、きちんとしたものを食べさせてやるんだな」

「そうか……では持病があるとかではないんだな」

「これだけ痩せていれば貧血か、月経不順くらいはあろうな。残念ながら婦人科は我の専門ではない。他をあたれ」

「あ、いや……」

 生々しい言葉を出され、口ごもる。

「問題なのはこれだ。見るがいい」

 と言うと、突然政宗の寝巻きの前を大きく開けた。可愛らしい水玉柄のブラとショーツをつけただけの、透けるように白い肌が露わになる。

「!! な、何をする! このセクハラ医者!」

 細いくせに、結構「盛り」がいい……と思ったかどうかはともかく、いきなり下着姿を見せられた小十郎は泡を食って毛布を被せた。

 かすかに頬が赤い。

「勘違いするな。……見たな?」

「み、見たって何をだ」

「全く、貴様ともあろう者が気付かぬか。

……この者は恐らく、日常的に虐待を受けている。悪質だな。服に隠れる部分を狙って傷をつけておるわ」

「……何だって?」

「手足に打撲痕や切り傷が多かったので確かめたのだ。胸と腹、太腿と尻に煙草を押し付けたような火傷痕がある。打撲による内出血も

多数見られた」

 それは所謂『根性焼き』と呼ばれるアレであるが、自分でやるようなものではない。

 親、という言葉に微妙な反応を返した先ほどの会話を思い出す。帰るところがない、という事実。他人に、特に大人の男性に対して怯え

ているかのような態度。

 それらから導き出される答は。

「児童相談所へ通告することを推奨する。なんなら、我がしてやっても良いが」

 子供が虐待を受けているのを発見した場合、児童相談所や警察へ通報する義務がある。その事実を知って意図的に見過ごせば、罪に

問われることさえあるのだ。

 医療に関わる者としても無視することは出来ないという毛利医師の言葉に、小十郎は首を横に振った。

「いや、それは待ってくれ」

 警察はいやだ、と言った政宗の気持ちを尊重したい。分別の付かぬ小児、というわけでもない年齢の彼女が嫌がるのには何某かの

理由があるはずなのだ。

「どうなっても知らぬぞ」

「彼女が目覚めてから、本当にそうなのか聞きたい。それに、俺たちはこんな稼業だ。一般警察に関わるわけにはいかねえのさ。

それはアンタだって同じだろう」

「……成程」

 普通に医師免許を持ち、一般の患者も診ている町医者であるが「もう一つの顔」を持っている彼は確かに、と首肯した。



 虐待されているだろうことは綱元と成実には伏せておくことにして、風邪と過労とだけ伝えた毛利医師は「昼前に薬を取りに来るな」と

三人を睨むと白衣を翻し、帰っていった。

「大したことなくてよかったね。じゃ、そいういうわけでおれ、寝るわ」

 あー学校かったりー。と唸りながら成実が自室へ戻った後。

「あんまり悪者になりたくないんですけどねぇ」

 豆から丁寧にいれたコーヒーのカップを二つ――自分のものと小十郎のだ――テーブルに置いて、綱元は苦笑交じりに切り出した。

「成実はああだし、あなたも結構ツメの甘いところがありますから……ほだされやすい、というか。結局私が言うしかないのでしょうね」

「言いたいことは解っているつもりだ」

 芳醇な香りをあげるカップの中身をすすって、難しい顔で返す小十郎。

「私たちが何者なのか、は知らないのですね? 彼女は」

「ああ。怪しんでいるようではあるが」

「でしたらなるべく早い方がいい。体調が戻り次第、自宅へ戻っていただきましょう」

「そうだな……」

「普通の、しかもあんな年端の行かない女の子が関わっていい人間ではないのですから。……互いに深入りする前に」

 小十郎の微妙な変化を読み取る観察眼の鋭さは流石と言うべきか。常に穏やかな雰囲気を崩さない綱元であるがしかし、眼鏡の奥の

目は決して微笑んでなどいなかった。

「それともなにか、問題でも?」

 煮え切らない返答に、なにかあるのかと追求してくる言葉。

「いや、何もねえよ」

 先ほど、毛利医師と共に知った事実を隠して「俺もそうすべきだと考えていた」と続けた。



「綱元、明日はヒマか?」

 政宗が体調を回復する前に、確かめねばならないだろう。

 熱いコーヒーを飲み干しながら、ある考えを巡らせ始めた。





To be continued...









毛利先生登場(笑) 白衣が似会うと思うんですよねあのお方v
そして微妙に暗い……ちょっと重たい話になってしまいました; あうあう。
通告義務の話は本物です。匿名の密告でもいいみたいですがー……この話でソレやっちゃったら
話にならないんで、次回は警察へ行くお話。鬼刑事とか熱血警官とか出る予定(笑)