!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。


















Hitmen'n Lolita #29










 すでに夜ではないが、朝まだきという時間。

 二人が幾度となく様々なことを経験してきた、薄明のとき。

 質素なパイプベッドで生まれたままの姿で抱き合うようにして眠る二人の上に、ブラインドの隙間から差し込んだ朝日が射した。

「ん……眩しい……」

 瞼の裏に曙光を感じた政宗は、小十郎よりも先に浅い眠りから醒める。

 自分を抱きしめて未だ眠りの中に居る恋人の、今は下ろされている髪をいとおしげに撫で付けて。

「Good morning, baby.」

 ぎゅ、と抱き返した。

 起こしてしまわぬようそっと腕を解き、ベッドを抜け出ると脱ぎ捨てられていたパジャマの上衣を羽織る。

 明るくなり始めた室内で見る布団は昨夜の狂乱の名残を残してしわくちゃで、恥ずかしくなった政宗は誰が見ているでもないのに忙しく瞬いて。

 僅かに身体の内側に残る熾火のような熱の残滓に赤面して頬を押さえた。

「……シャワー、浴びてこないと」

 寝起きでふわふわする頭を振って、スリッパを履いた足がドアへ向かう、その前に。

「いつかまた、こうやって……」

 体重のかかったベッドのスプリングが微かに軋む。

 瞼を下ろした政宗の長い睫が白い頬に影を落とし。

 柔らかな唇が、眠る小十郎の唇に触れた。

「ふ……っ」

 今にも泣きそうに表情をゆがめた政宗は、それでも消え入りそうな微笑を向けて身を離した。

 いつか、二人が何に阻まれることもなく愛し合える日が来ることを願って。

 応えられることの無い、最後のキス。



 冬枯れの街路樹が延々と続く朝の道は、時間の所為もあってその車以外に通行するものはなかった。

 低いエンジン音で上質なものと知れる、窓ガラスが総てスモークの真っ黒い乗用車が走って行く。

 代紋こそは付けられていないがそれは伊達組より政宗を迎えにくる車であった。

「総長のお嬢さんってのはえれぇ美人らしいな」

 乗用車に乗る二人の組員のうち、ハンドルを握る方が切り出した。

「そりゃお前、あの別れた姐さんの娘だからな。姐さん、綺麗な人だったからよ」

 普段はチンピラまがいなのだろうか、着慣れないスーツが窮屈そうな今一人が応える。

「へぇ……。戻ってきてよかったな、きれいどころがいると華があっていいや」

 野郎率百パーセントのムサいことこの上ない伊達組にようやっと女性が、しかも美少女と言われる子がやってくるのだ。その娘が任侠一家を

受け継ぐかはともかく、組員たちにとっては顔も見ないうちからアイドル扱いされている。

「けどよぅ、なんで総長は……ってうわああああ!!!」

 まだ見ぬ政宗の美貌を想像して鼻の下を伸ばしていた組員が、わき道から突然飛び出してきたトラックに慌ててハンドルを切って急ブレーキを

かけた。

 あわや衝突事故、ということろで停車した車の窓から助手席の組員が怒鳴る。

「やい、危ないじゃねえかゴルァ!! 運転手出て来い!!」

 エンジンを止めたものの、一向に運転席から誰も降りてこないトラックに痺れを切らし、二人は車から降りてトラックに近づいた。

「降りろっつってんだろうが! ナメてんのかテメェ」

 ガン。運転していた組員がトラックのドアを蹴飛ばした。

 ややあって、運転席のドアが開き中から出てきたのは黒いスーツを纏った男二人。

 トラックの乗員というには些か不自然な装いに伊達組の二人は眉を顰める。

「アァン? 何だテメェらは」

 ズボンのポケットに両手を突っ込み、威嚇するように肩をいからせてスーツ男に近づく二人の背後で、トラック後部のコンテナが開いた。

「……!?」

 バラバラと降りてきた特殊部隊員のような黒服たちに目を瞠り、懐の銃を抜く暇もなく首筋に何かを突きつけられて一瞬にして崩れ落ちる。

 黒服の手でパチ、と青白い光を閃かせるそれは威力を最大にまで引き上げたスタンガンだ。

 伊達組の二人を黒服たちがコンテナに放り込んで自分たちも中に戻るのを見届けた黒スーツの片割れが携帯を取り出し、どこかへかける。

「お疲れ様です。只今、ターゲットの車を確保しました。……はい、予定通りそちらへ向かいます。それでは」

 短い通話を切った黒スーツは、相方を促して伊達組の車に乗り込んだ。

 トラックが行ってしまうまで暫く待ち、乗員の入れ替わった車が音もなく走り出す――。



 時計の音がやけに響く。

 纏めた荷物を脇に置き、ソファに座った政宗は唇を引き結んだままうつ向き気味で迎えが来るときを待っている。

 その向かいで、こちらも難しい顔で考え込んでいる小十郎。

 窓際で、ビルの前に車が止まるのを待っている綱元。

 例の仕事着で落ち着かなげにリビングを歩き回る成実。

 皆一様に沈黙を保ったままで。

「……迎えが来たようです。政宗、支度はできていますね?」

 小十郎に何か声をかけようと口を開きかけてはやめる、を繰り返していた政宗が綱元の言葉にハッとして顔を上げた。

 顎を引くようにちいさく頷くと、席を立つ。

「なんつぅーか……あんまりヘコむなよ? 今回のことが終わったらおれも家に戻るからさ」

「俺が居なくてもちゃんと野菜は食べろよ」

「……あー、うん、努力する」

「Good boy.」

 よしよし。自分より遥かに背の高い従弟の、既に半分近く黒髪になってしまった頭を淡く微笑んで撫でた。

「短い間でしたが、貴女が居てくれたお陰で楽しかった。……元気で」

 相変わらずの穏やかな微笑で玄関までと荷物を持った綱元に短く礼を言って。

「……綱元も。話、聞いてくれてありがとう。これから少しずつ気持ちを変えていくよ」

「何かあったらいつでも相談に乗りますよ。連絡先は総長がご存知ですから」

 これで全くの他人になるわけではないと言った綱元に少し哀しそうな笑顔を向ける。

 そして。

「……」

「……あの」

 玄関先へ移動した三人から離れ、ソファの脇に立ったままの小十郎に何か言いかけた政宗だったが、どこか辛そうな複雑な表情をしているの

を目にするや口をつぐんでしまった。

「じゃ、俺もう行くわ。……三人とも、今まですごく良くしてくれてありがとう。ここでのことは忘れない」

 綱元から荷物を受け取り、ぺこ、とひとつお辞儀をして。

 制服のスカートを揺らして身を翻しかける、その動きが止まった。



 このままで、いいのか?

 本当に?

 何も言わずに?

 自然消滅、して。



「……No.」

 いいわけなんか、ない。

「……No way.」

 厭だ厭だ厭だ。こんなの、厭だ。



 荷物が手から離れ、床に落ちて大きな音を立てる。

 驚いて目を見開く綱元と成実の間をすり抜けて、細い足が駆け出した。

 リビングに立ち尽くす、小十郎に向かって。



「厭だ! 離れたくない! 小十郎……っ!!」

 大きな物音に振り向いた小十郎に、勢いよく抱きついた。

 彼のシャツからほんのりと香るコロンに涙が溢れ出す。

 初めてだったのに。

 こんなに人を好きになったのは初めてだったのに。

 生きるべき世界が違うから、危険だからといって終わらせてしまいたくない。

 どうか『行くな』と言って。

 いつものように優しく抱きしめて。

 お願い、だから……!

「……っ、まさ」

 自分に縋り付いて泣く少女の華奢な背中を、一瞬抱き返すように腕が上がった。

 だが。



 終わらせると決めたのだ。

 政宗の幸福を希うなら。

 それがどんなに辛くとも。

 引き止めてはいけない。自分と同じ修羅の淵に立たせてはいけない。

 その白い手を、穢れさせてはいけない。

 ……だから。



 中途半端な位置で腕を止めたまま、小十郎の顔が苦痛に耐えるように歪んだ。

 だがそれも直ぐに消え。

 表情をなくした唇が、凶悪な角度に引き上げられた。

「……放せよ」

「What?」

 ぽつり。聞き取れるかという小さな声で呟かれた言葉の意味を捉え損ね、涙に濡れた顔を上げた。

 きょとんとして見上げてくる視線から目を逸らして。

 未だ抱きついたままの政宗の両肩を掴み、押し返した。

「放せっつてんだ。何、マジになってるんだテメェは。一度寝たくらいで恋人気取りやがって。だからガキは嫌いなんだよ」

「……え?」

「もううんざりなんだ。ケツの青いお嬢ちゃんのお守はよ」

 泣くのも忘れ、凍り付いてしまった政宗を見遣る小十郎の表情は今まで見たことも無いような悪どい笑みを刻んでいる。

「ちょっ! 何だよそれ!?」

 一足先に小十郎の言葉を理解した成実がいきり立って一歩踏み出す。

 その出鼻を挫くように綱元の腕が彼の前に差し出された。

(いけません)

 無言の威圧。

「……っ!」

 それ以上先に進むことが出来ず、この上なく傷ついた表情で奥歯を噛み締めた成実は「クソッタレ!」と小さく吐き捨てて顔を背けた。

「……何、言ってるんだ……?」

 信じがたい言葉と態度に、感覚が麻痺してしまったのか感情のこもらない声音がいらえを請う。

 何かの冗談なのか? どうして、そんなことを言う? 昨日はあんなに優しかったのに……。

「あぁ、物分りの悪いお嬢ちゃんにはハッキリ言ってやらないと解らねえか?

……たかが遊びの関係で本気になるな、って言ってるんだ。うざってえ」

「……そんな」

 そんな、ことって。

 ようやっと小十郎の言葉の意味を理解したのか、今にも泣きそうに表情を歪めた政宗の声が震えている。

 そんな彼女の様子にも眉ひとつ動かさず、最後の一言を言い放った。

「さっさと行っちまえ。二度とそのツラ見せるんじゃねえぞ」

 それだけ言うと、くるりと背中を向けて懐から取り出した煙草に火をつけた。

 もう関わってくれるなといわんばかりに。

「……こじゅ……っ!」

 強く握り締めた掌を、爪が傷つけて赤い血が床に滴り落ちた。

 細かく震える唇がたった今自分を振った男の名を呼びかけ、言葉を飲み込む。

 大きく見開いた独つ目から、透明な涙がひと粒零れ落ちる。

「……指輪、捨ててくれていいから」

 やっとのことでそれだけを絞り出すような声で言うと、自分の薬指に嵌っていたシルバーリングを外し、血の止まらない掌で強く握り締めた。

「Bye」

 涙声を必死で抑えて。玩ばれていたという怒りよりもただ哀しくて、哀しくて。

 一緒にいたかった。何気ない日常を共に過ごしたかった。そうやって、二人で、月日を送って。

 けれどそれは、自分だけの勝手な願いだったのだ。

 小十郎にとっては重荷でしかなかったのだ。

 この、隻眼の醜い女は。

 床に落とした荷物を取り上げ、顔を俯けたままドアをくぐろうとする政宗の背後から成実が慌てて声をかけた。

「待って! 下まで送るから」

「No! 必要ない」

「でも」

「いいから! 一人で……行かせてくれよ……」

 バタン。

 追いかけた成実を拒んで、目の前で閉まる重たい鉄扉。

 深くうなだれ、両の拳が固く握り締められた。

 哀しみと怒りとがない交ぜになった声で、背中を見せたまま紫煙をくゆらす小十郎に向かって罵倒する。

「これで、良かったのかよ!? 梵、泣いてたぞ。本当にこんな終わらせ方でテメェは納得してるのか!!」

 普段は滅多に出さない激しい口調。叩きつけるような声が己を責め立てるのに振り向きもせず、平板な声音がなおも続こうとする罵声を遮った。

「成実、テメェには関係ない話だ。仕事へ戻れ、時間が無いんだぞ」

「なっ……この野郎……っ!」

 怒り心頭に達し、殴りかかろうと踏み出した成実の肩を強い力で綱元が掴んだ。

 ぎり、と強靭な指先がシャツに食い込む。

「成実。仕事に戻りなさい」

 身体の心を凍りつかせるような冷ややかな声音。

 一切の否定を赦さない高圧的な言葉に唇を噛み締めた成実は二人を交互に見遣り、肩を掴む手を振り払った。

「……わかったよ」

 信じられない。そう言いたげに首を振って。

「あんたら、最低だな」

 低くそう言い残し、自分の部屋へ戻っていった。

「大丈夫ですか?」

 成実が出て行って暫く、無言で煙草をふかしていた小十郎に綱元が歩み寄り、灰皿を差し出す。

「何がだ? こんなことで心配されるほどヤキ回っちゃいないぜ」

 振り向いて煙草をもみ消した小十郎の表情は。

「……少し、一人でいなさい。ひどい顔をしていますよ」

 見えない血を流す傷口の痛みを堪えかね、慟哭を抑える者のそれであった。



 エレベーターの呼び出しボタンを押し、上がってくるまでの間我慢し続けていた嗚咽が箱に入った途端ついに抑えきれなくなった。

 その場に頽れ、顔を覆って、子供のように。

(『あぁ、物分りの悪いお嬢ちゃんにはハッキリ言ってやらないと解らねえか?

……たかが遊びの関係で本気になるな、って言ってるんだ。うざってえ』)

 小十郎の冷たい言葉が耳に蘇り、しゃくりあげて泣く政宗を打ちのめす。

 裏切られた、という事実よりも。

 あんな言葉を発してしまうまで自分の存在が彼を追い詰めていたのに気付かなかったことが。

「っく……」

 もうすぐ一階に着く。迎えに来ている伊達組の人間に涙など見せられない。

 ポケットからハンカチを出し、ぽろぽろと際限なく頬を伝い落ちる涙を拭ってよろめきながらも立ち上がった。

 今日からは、誇り高き任侠一家の跡取り娘なのだ。

 無様なところなど、見せてたまるか。

 ……でも。

「……こじゅ……ろ……!!」

 その名を呼ぶだけで、今にもその矜持は虚しく崩れ去ってしまいそうで。

 握り締めたままの指輪をそっと胸に抱き、睫を震わせて目を伏せた政宗はドアが開く寸前、きり、と表情を引き締め顔を上げた。

「――Shit!!」

 ガツン!

 やりきれない想いを、ドアに激しく打ち付けて。

 歯を食いしばった表情はもう涙の痕跡など残していない。



 ドアが開く。

 オーバーニーソックスに包まれた足が外へ踏み出す。

 振り向くこともなく。

「――政宗様ですね」

 ビルの前に停まった車の脇に佇立していた黒スーツが控えめに訊ねてきた。

「Yes.」

 固い声音で短いいらえ。

 黒スーツは優雅に一礼すると、政宗が抱えていた荷物を受け取って。

「どうぞ、お車へ」

 慇懃な態度だがサングラスで表情の見えない黒スーツを警戒してか、軽く眉を顰めて無言で首肯し、開かれた後部ドアに身を滑り込ませた。

 バム。

 重たい音をさせてドアが閉まり、即座に滑らかに走り出す。

 未だ手の中にあったシルバーリングを手放せず、ぎゅっと握り締めた政宗は後部座席の隣に見知った人物が居ることに気付いて瞠目した。

「あ! あなたは……」

「また、会ったわね」

 その人物は。

「私の名前は帰蝶。実は総長の使いで貴女を探していたの」

 先日、『賎ヶ岳』でまつに政宗のことを訊いていたという、あの女性であった。

「そうだったんだ……。なぁ、父様ってどんな人なんだ? 俺、全然憶えてなくて」

 シルバーリングをポケットから取り出した細いチェーンに通し、一瞬辛そうに目を伏せて首にかけた政宗に艶やかに微笑みかけた帰蝶はそう

ねぇ……と思案顔。

「とても『良い人』よ。昔は鬼と呼ばれるような人だったけど……」

 言葉を切り、ふっと笑った。

 そこにほんの少し混ぜられた棘に、どこか上の空で指輪をいじる政宗は気付かない。

「今は、虫も殺せないような」

「ヤクザの親分なのに?」

「だからって、悪いことばかりをしているわけじゃないわ。……それはそうと、今日からは伊達組の跡取りなのだから男のような言葉遣いは正さなくてはね?」

「Ah……」

 帰蝶の言葉に生返事をして顔を窓へ向けた。

 ともすれば泣き出しそうになるのを見られたくなくて。

 もう、何も考えないようにしよう。自分は振られてしまったのだから。

 最初から叶わぬ恋だったのだ。勝手に好きになって、勝手に想われているのだといい気になって、勝手に恋人面して。

 だから、疎まれた。それだけのこと……。

 ぐっと噛み締めた唇が痛む。それでも、胸を抉る哀しみに比べれば何も感じないに等しかった。

「……?」

 暫くぼうっと車窓を流れ行く景色を眺めていた政宗は、何かがおかしいことに気付いた。

 市街地を抜け、一旦は閑静な住宅街に入ったものの車は目的地へつくことがなく、段々と周りが寂しくなってきたのだ。

 民家や商業施設は姿を消し、周辺は流通倉庫や空き地が増えてゆく。

 なのに車は迷っているでもなく、スピードを上げて真っ直ぐ進んでいる。

「なぁ……家、どこにあるんだ?」

 高速道路のインターチェンジが交錯する海辺へと道は続き、周りはすっかり倉庫街だ。

「道を間違えたんじゃ」

 とてもではないがこんな所に人が住んでいるとは思えない。

 不安げに帰蝶を振り返った政宗に嫣然と微笑んだその美貌がごく僅か、痛ましげに顰められた。

「いいえ、これでいいのよ。……ごめんなさいね、貴女は何も悪くないのに。輝宗の娘に生まれてしまったばかりに」

「……What?」

 今、この人は何と言ったのだ? 彼女の上司である父親を名前で呼び捨てるとは?

 状況が飲み込めない。柳眉を顰め、逃げられもしないのに尻をずらして後ずさろうとする政宗に、小ぶりの自動拳銃を取り出した帰蝶は銃口を

向けた。

 セーフティを外すカチリという音がやけに大きく響いて。

「……抵抗すると、痛い目にあうわ」

 綱元に銃を向けられた時とは桁違いの殺気に、不安げに揺れていた独つ目が見開かれていった――。



「クソッ! クソッ! クソッ!!」

 戻った自室のドアを激しく殴りつけ、血が出るのにも構わずに幾度も拳を振るう。

「なんでだ! どうしてこんなことになっちまったんだ! 畜生……っ!」

 去り際に見た政宗の涙が脳裏に焼きついて離れない。

(『泣かして傷つけて終わらせるつもり? 自分は殺し屋で、梵は普通の女の子だから? そうなったらおれ、こじゅのこと軽蔑する』)

「だから言ったじゃねえかよ……」

 結局、泣かせて傷つけて、最悪の終わり方をしてしまった。

「こんなことになるんなら、」

 無理やりにでも奪っておけば――。

 ドアに打ち付けられた拳が、血の跡を残して下ろされた。

「……おれも、大馬鹿野郎だ」

 そのままずるずるとその場に膝をつき、深くうなだれる。

 学校で最初に見つけたときから、いやもっと昔、初めて政宗に会った幼い頃から。

 ずっとずっと、彼女を想い続けてきたというのに。

 何も、できなかった。何ひとつ、してやれなかった。

 あの涙を拭ってやることさえ。

 最低なのは、自分だって同じではないか……!

「どうすりゃいいんだよ? 今更何ができるってんだ」

 頭を抱え、激しく首を振った成実の耳に、壁際のPC群からメール着信を知らせる音が届いた。

 その音にビクリと身を震わせ。

「いや……まだ何も終わってねえ」

 何かできるのだとしたら。すべきなのは。

 この争いを、終わらせること。

 自分にしかできない、果たすべき役目。

「……終わったら、こじゅのケツ蹴飛ばしてやる」

 そう言うやうっそりとした動きで立ち上がり、己を待つ戦場へ力強く踏み出した。













To be continued...









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二人の結末について、多分「そんなのイヤだ!」って思う方、いると思うんです。
ごめんなさい、幸せにしてあげられなくて(涙)
でも、これも愛の形のひとつ。