!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。


















Hitmen'n Lolita #22










 あまりに唐突過ぎる、そして突飛な発言に暫く硬直したまま返す言葉を失ってしまった。

 銃の使い方を教えて欲しいだって?

 いったい、どんな思考をすればそんなことを言い出せるのだろう。

 考えられる理由といえば小十郎を傷つけた相手に復讐するということだが、それで銃とは穏やかではない。

 そのようなことを考えるような娘には見えないが……。

 もしかして、自分が思っている以上に激しいものを持っているのだろうか?

「……とりあえず、そこに座りましょうか」

 ものすごく力んでいるのがありありと判る政宗の様子に内心の動揺を抑えていることすら見せずにソファへ座るよう勧める。

「回りくどい言い方をしても意味はありませんから結論だけ言いますね。――教えられません」

 断られると予想はしていたのだろう。やっぱり……とでもいう風に俯いて唇を噛んだ。

「どんな理由があるにせよ、あなたに銃を持たせるわけにはいきません。あれは、エアガンとは違うのですよ。この国では無許可で所持

するだけで犯罪なのは知っていますよね?」

 叱り付けるわけでもなく、あくまで穏やかな綱元の言葉に無言で頷く。

「どうしてまた、銃の使い方を知りたいなどと思ったのです」

「……」

 言いたくないのか、困った顔で目線を逸らした。

「小十郎を撃った人間に仕返しでもしたかったのですか?」

 決して強い言い方ではないのだが、徐々にその言い方に静かな怒りのようなものが混じってゆく。

 怒り? そうではない。苛立ちにも似た、なにかだ。

「もしそうなのなら止めておきなさい。あなたは『こちら側』に来てはいけない。小十郎も、そんなことを望んではいないはずです」

 沈黙のうちに俯く姿は、綱元の問いを肯定しているように見えた。

(この娘は、あまりにも一途だ)

 穏やかで内気そうに見えて、その実驚くほど強いものを裡に秘めている。

 そんな風に思いつめるタイプの人間に大きな力を持たせるのは危険だ。

 まして精神的に不安定であろう今の彼女は。

 それにしたって、想い人が傷つけられたからといっていきなり銃とは飛躍しすぎなのではなかろうか?

「それとも、他に理由でも?」

 もしかすると彼女をそこまで追い詰める何かがあるのかもしれない。

 たとえば、家出してきた理由に関係するものとか。

「……いや、もういいんだ。変なことを言ってごめん。忘れて」

 弱々しく笑って首を振り、「味噌汁温めてくるから」と席を立ってキッチンへ行ってしまった。

(忘れろと言われても……気になるじゃありませんか)

 銃の使い方を知りたいと言ってきたことには何がしか、危険な意図があるはずだ。

 あれの用途はひとつしかないのだから。

 政宗が銃を向けたいと思う人物とは……。

(……いや、まさか。しかし考えられなくもない)

 これは少し注意しておかねばならないかもしれない。



 断られるのは判っていた。自分があまりに唐突で非常識なことを言い出していることも。

 味噌汁の鍋が乗ったコンロに火を入れて、食器棚からお椀を三つ取り出しながらも政宗の思考はここではない場所へ飛んでいた。

 小十郎を傷つけた人間に制裁を、という気持ちは確かにある。自分では身を起こすこともできない姿を見るにつけ、撃った者への憎しみ

は募るばかり。

 けれどそれをするのは他でもない、撃たれた小十郎自身なのだ。

 悔しいけれど、自分が彼に対してできる……そしてそうすべきなのは、傍について看病することだけ。

 部屋から出てきたらしい成実の声が背後から聞こえてくる。

 昼間、彼に説得されたのもあって自分のなすべきことについては納得しているつもりだ。

 小十郎を支えられるほどに強くなりたいと思う気持ちに変わりはないけれど。

「でも、それだって今のままじゃ」

 流し台のへりについた両手が細かく震えている。

「何とかしなきゃ、これ以上小十郎の隣に居られないよ……」

 想うがゆえに。誰よりも大切に思えるがゆえに。

 離れたくなんかない。だから――。



「ごっそーさん! あぁ労働の後のメシはうまい! あ、梵の作るゴハンはいつでも美味しいけどね」

 ぷはーっ。味噌汁をビールを煽るオヤジのように飲み干して、幸せ一杯の笑顔。

「おそまつさまでした。……ところで、その格好寒くないのか?」

「んぁ? いや、あんまり」

 『潜って』いたときのTシャツにハーフパンツといったおよそ季節を無視した格好のまま部屋から出てきた成実は鳥肌ひとつ立っていな

い腕を見せた。

 まるで真冬でも半そで短パンの小学生だ。

「見てるこっちが寒いぞ」

「寒いのには慣れてるからね」

 なにげない会話を交わす二人の傍で、綱元は無言で箸を動かしている。

 政宗も先程の話の雰囲気を引きずることなく成実に茶を入れてやっているが、微妙な目つきでちらちらと綱元のほうを見ていた。

「ん、ありがと。……なにか、あった?」

 政宗と綱元の間に流れるぎこちない空気を感じ取ったのか、受け取った茶を一口すすって二人を交互に見遣った。

「……Nothing. ちょっと俺、小十郎の様子見てくるから。食器は流しに置いておけよ」

 そっけなく答えてリビングを出て行く後姿になおも疑念を深める成実。

「ツナ、なんか梵の様子が変だけど」

「ごちそうさまでした」

「ちょっ、聞いてるのかよ」

 問いに応えることなくテーブルを片付け始めた綱元。きれいに無視されてむっとした成実はソファの背もたれに寄りかかって頭の後ろで

手を組むと不機嫌な声でわざとらしく溜息。

「出たよ、ツナのうざいところが。都合の悪い話になるとすーぐ聞こえない振りするんだよな」

「……片づけくらいしなさい。話はそれからです」

「なんだよ、怖い顔して」

 普段、笑顔を絶やすことがないために殆ど開かれることのないキツネ目が眼鏡の奥で強い光を放っていた。

 そういう顔をするとこの鬼庭綱元という男、小十郎とはまた違った恐ろしさを持った面構えをしている。

 淡々と洗物を始める綱元に口答えのしようもなく、三人分の食器を片付け始めた。



「で? おれが『潜って』る間になにかあったわけ?」

 片づけを終え、それぞれ好みの飲み物を――綱元はいつものコーヒー、成実は500mlペットボトル入りのドクターペッパーだ――手に

ソファへ落ち着いたところで改めて政宗の態度について問うた。

 マグカップを両手で挟むように持ち、目を閉じてその香りを楽しんでいた綱元は顔を上げると寝室へ続くドアをちらっと見遣った。

 小十郎の様子を見に行く、と言った政宗はまだ戻ってくる様子がない。

「もう一応終わった話なんですけどね……」

 重い口調でそう切り出すと、軽く溜息。

「政宗が、銃の使い方を教えて欲しいと言って来たんですよ」

「あー……やっぱり」

「? 知っていたのですか」

「知ってたっていうか。今日の昼にさ、梵がおれに『小十郎をヤッた奴は誰だ』って訊いてきたんだよ」

「教えていないでしょうね」

 綱元のみならず、成実にまでそんな話をしていたことに眉根を寄せる。

「言うわけないじゃん。知ったところでどうにかできる相手じゃないけど、下手に関わったら危ないしさ」

 織田組、といえばしばしばニュースにも名前が出る凶悪な組織だ。そんな連中を相手取っていると知ったら普通は怯えてそれ以上首を

突っ込もうとはしないだろうが……。

「銃の使い方を知りたいってことは、撃った奴に仕返ししたいってこと? ……そんなに梵ってこじゅのことを」

 まだ知り合ってから大して経っていないはず。好きあっているとはいえ、そこまで感情が進んでいるなんて。

「ああいうことに時間というのは関係ないでしょう。でも、どうにも引っかかるんですよ。本当に、小十郎の仇を討ちたいと思って言い出した

のか」

「え?」

「それ以外の理由があるのでは、と言っているんです。殺したいと思うほど彼女を追い詰めている人物がいたとしたら……」

 なぜこのタイミングで、という疑問は残るが尋常でない過去と心の傷を負っている彼女ならばありえなくもない。

「……それ、ちょっと心当たりあるかも」

 ペットボトルをテーブルに置いて、何かを思い出しているように視線を天井へ向けて。

「心当たりとは?」

「うん。あんまりデカい声じゃ言えないんだけど」

 そこで言葉を切り、向かい側に居る綱元へ顔を寄せた。

「梵の家って、両親が離婚してて今の親父さんって血が繋がってない人だろ?」

「そうでしたね、確か」

「これはおれの予想だけど、もしかして梵、親父さんに殴られたりしてたんじゃないかな」

 成実は毛利医師の話を聞いていなかったが、政宗の手足に残る傷や火傷の痕を見れば嫌でも気付く。

「継父に復讐したい、ということですか」

「家出してきた理由がそこにあるのなら、よっぽど酷い目に遭わされたんだね。なんで今、って思わなくもないけど」

「……」

 言うべきなのだろうか?

綱元は小十郎から政宗の継父の行いについて既に知っていた。しかし、それを成実に教えても良いものだろうか。

 あんなことをされれば、殺意を持つのも仕方ないのかもしれない。

 右目を失明させられた上に、何度も性的虐待を受けていたのだから。

 そして今、行動を起こそうとしているということは。

(過去の清算をしたかったのですね……)

 彼女の心に変化があったとすれば、小十郎のことをおいて他ならない。

 穢れた自分のままで彼と付き合うことはできない、と思ったのだろう。

 過去と決着をつけるのに、他にいくらでも方法はあるはずだが政宗の性格を考えると継父の殺害、という結論に至るのは理解できなく

もなかった。

 そのような怖ろしいことを軽々しく考えるような娘ではないから、自分たちには見えないところで相当深い葛藤があったはずだ。

 一途で真面目すぎるがゆえに。

「成実の言う通りかもしれません。……理由の如何はともかく、暴挙に走らないようそれとなく気をつけておきましょう」

 結局、綱元は政宗が継父に殺意を抱く本当の理由を告げることはなかった。

(早まってはいけない)

 どんなに憎かろうとも、殺しはあくまでも殺しだ。

 継父の命を奪ったとて過去の清算になどならない。むしろ、さらなる深みへ突き落とされるだけなのだ。

 小十郎への想いがそんなことに繋がってくるなど思いもよらなかった。

(困ったことになりましたね……)



 様子を見に行くというのは事実だが、半分は口実であった。

(綱元に銃の使い方を教えて欲しいといったのは間違いだったのかも)

 いたたまれない。きっと、過激な思考をする非常識な人間だと思われただろう。

 けれど、本当の理由など告げられようはずもなく。

 ベッドサイドに置いた椅子に座ったまま、膝の上に置いた両手をきつく握り締めていた。

 視線の先では小十郎が穏やかな寝息を立てて眠っている。薄暗い室内でその表情はよく見えなかったが、鎮痛剤がよく効いて痛みは

感じていないようだ。

 以前、自宅へ帰って継父と鉢合わせしてしまった後。彼は自分のことを『綺麗だ』と言ってくれた。

 薄汚れた過去など関係ないと。

 それが、とても嬉しかった反面たまらなく切なくて。

 誰が赦してくれようとも、自分自身が赦せなかった。

 己の弱さを。一時でも受け入れていたあさましさを。

 そうしなければ正気を保つのは難しかったというのはただの言い訳に過ぎない。

(自分は、汚れている……)



 それは数日前、小十郎が銃弾に倒れる前のことだった。

 久しぶりに陸上部の練習に加わった(というより、部長である政宗の同級生に引きずられていった)成実と別れて一人で下校することに

なった政宗を、校門の所で待っている人物が居たのだ。

「よぅ、元気そうじゃねえか」

「……!」

 明るい笑い声を上げながら下校する生徒達を眺めながら壁に寄りかかり、煙草をふかしていた男の姿を見た途端、全身の血が凍りついた。

「お父さん……」

「そう怖い顔をするなよ、美人が台無しだぜ」

 先日荷物を取りに戻ったときに運悪く鉢合わせして以来、忘れようと努めてきた継父が自分から会いに来たのだ。

「何の用ですか」

 じり、と後ずさり怯えと怒りの混じった目で睨みつける。

 迂闊だった。今の住所は母への手紙にも書かなかったが、学校は当然知っているはずで。待ち伏せて、連れ戻すのなんて簡単なこと。

 暫く穏やかな日々が続いてしまったために警戒心が薄れていたのだ。成実と居ればこういった危険は避けられたが、それを悔やんでも

もう遅い。

「まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。そのへんの店でちょっと話をしようじゃないか」

 継父は例のニヤニヤ笑いを浮かべながら、さらに身を引いた政宗の手をとった。

「やっ……!」

「そんなに怯えなくても今日は何にもしねえよ。今日はな……」



「お待たせしました」

 学校近くの喫茶店に入り、継父と向き合って座ったテーブルにコーヒーと紅茶が置かれた。

 政宗はいい香りをさせているそれに手をつけることもなく、固い表情で視線を下げている。

 長い沈黙。継父もそれからひと言も発することなく煙草をふかしている。

 バイトに入る時間が迫っていた。

「……俺、家に帰るつもりありませんから」

 短くそれだけ言うとテーブルに紅茶の代金を置いて立ち上がろうとする、そこへかけられた言葉に政宗の動きが止まった。

「この間オレを殴った奴な、真っ当な商売してないだろ。ありゃあ、ヤクザか何かだな」

 小十郎のことだ。明らかに動揺した政宗に追い討ちを掛けるように継父は口許をゆがめてみせる。

「目がヤベェ。人殺しの目だ。悪いことぁ言わねえ、あんな奴とはさっさと切っちまいな」

「……嫌です」

 もうこれ以上話していたくない。顔も見たくない。なのに、何かを企んでいるらしい継父の視線を逃れることが出来ない。

 テーブルに置かれたままの手に自分の手を重ね、猫なで声を出す継父に戦慄が走る。

「以前のテメェは聞きわけがよかったのになぁ? 可愛い娘に悪い虫がつくのが不憫だ、って言ってるんだぜ」

 そこで政宗の隣に座り、肩に手を回して座らせた。

「嫌か。それじゃあ仕方ねえな。なに、心配するな。ヤツがちょーっと困ったことになるだけさ……」

 嫌がって身を引こうにも逃げ場のない座席の上。きちんと揃えられた足の、スカートから出たふとももに肩に回したのとは逆の手が這わ

された。

「小十郎に何をするつもりだ!? 彼は関係ないって言っただろ」

「オレの知り合いには警察の関係者がいてな。あの手合いは叩けばいくらでも埃がでるだろうぜ」

「……! や、やめろ!」

「慌てるってことはやっぱりその道の人間か。へっ、テメェもつくづく好きだなそういう奴がよォ。乱暴にされるのがイイんだろ?」

 なぁ? そう耳元に囁いた継父の手がスカートの中に潜り込んだ。悲鳴を押し殺して顔を俯けた政宗に気を良くしたのか、もぞもぞとま

さぐってくる。

「もう濡れてるじゃねえか。そういや久々だもんな。あの男とはまだヤッてないんだろう? 可哀想になぁ……これからたっぷり可愛がって

やろうか?」

「触るな……んっ」

 こんな場所であるにもかかわらず恥のない行いをする継父を殴ってでも逃げたかったが、がっちりと掴まれた肩は動かすことも出来ない。

 目の端に涙を浮かべ、自分の意思と反して疼きだす身体に唇を噛み締めた。

「オレの言うことを素直に聞けば、止めてやらないこともないぜ。何のことか、わかるよな……?」

 小十郎を警察に訴えるのを止める代わりに、継父との関係を続けろというのだ。

「悪い話じゃないと思うがな。カレシは安泰、テメェは気持ちよくなれる。全部丸く収まるじゃねえか」

「……っ」

 にやにやと好色な笑みを浮かべながら返事を待つ継父を強い瞳でにらみつけた。

 たとえ、彼の要求を受け入れたとしても、きっと継父は小十郎を訴えるだろう。犯罪の証拠がなかったとしても、未成年者略取だの何だ

のと理由をつけて。



 ――逃げられない。



 何処へ逃げても、見つけられてしまう。それこそ、すべてを捨てて誰も知らない場所へ行かない限り。

 容赦なく続けられる指の動きに呼吸を乱しながら、絶望の淵に落とされる思いがした。

 自分が痛め付けられるだけならまだ耐えられる。

 でも、小十郎に何かされるのだけは。それだけは……!

「小十郎には、手を出さないで」

「そりゃ、テメェの態度次第だな。……いいだろ?」

 耳に息を吹き込まれ、抱かれた肩に力が篭るともう、抵抗することもできなかった……。



 その後のことは思い出したくもなかった。あまりにも情けなく、醜い自分の姿を。



 こんな自分に人を愛する資格などあるはずがない。

 触れることさえ、きっと罪なのだ。

 布団からはみ出した手を戻してやりながら、その温かさに胸の奥が痛んだ。

 いとおしく思えるほどに、正比例して強くなってゆく罪悪感が自身を責め苛んでゆく。

「終わらせなきゃ……もう、こんなことは」

 血が滲むほどかみ締めた唇の間から零れたつぶやきは、誰にも聞かれることがなかった。











To be continued...









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

んー、段々元の筆頭のイメージから離れているような気が;
小十郎の職業について脅迫されて追い詰められてゆく政宗。
継父の酷さを強調する為にちょっと過剰に書いていますが……破廉恥! うわぁ;
なんか、男性向け作品っぽいですね最近_| ̄|○