!! ATTENTION !!

このシリーズは政宗様が16歳の女子高生になっています。
「……痛いよソレ」とか思っちゃった人は読まないでくださいませ〜。


















Hitmen'n Lolita #14










「はい、これ。飛ばすからちゃんと掴まっててよ」

 ヘルメットを抱えた政宗は不安そうに成実を見遣る。

 メタリックブルーと白のツートンカラーにカスタム塗装したカワサキ・ゼファー750。

 年齢的にどう見ても若葉マークがついているはずの成実は慣れた動作でエンジンをスタートさせ、乗ろうとしない政宗にどうしたの

かと手を差し出した。

「……大丈夫なのか?」

 初心者期間は後ろに人を乗せてはいけないはずだが……。

 しかも、こんな扱いにくそうな単車で。

「へーきへーき。こう見えてもライダー暦10年近いんだよ?」

「じゅうねん……って、幼稚園児のころから!?」

「育て親の趣味でさ。最初はオモチャみたいなやつだったけど、おれ身体でかくなるの早かったから中学上がる前にはこれに乗って

庭を走ってた」

「庭!?」

「うん、そう。私有地なら無免許でも乗れるから。あ、早く乗って。遅刻しちゃうよ」

 やっぱり、お坊ちゃんなんだこの人……!

 750cc――いわゆるナナハンを乗り回せるほどの庭とはいったいどれだけの豪邸なのだろうと目を丸くする政宗を、腕時計を見て

焦りの色を浮かべた成実がせかした。



 大丈夫だと豪語したのは決して嘘や誇張ではなかったらしい。

 テールランプを点してつまっている車の間を危なげのないハンドリングで縫いながら、高校生二人が乗ったゼファーはその名前の

通り、風のように走ってゆく。

 転げ落ちないよう成実の腰に腕を回してぴったりとくっついた政宗は短いスカートの裾が捲れそうで押さえるのに必死だ。

「ねー、ぼんー!!」

 渋滞を抜け、郊外の空いた道に出たため余裕が出来たのだろう。後ろをチラって振り返って叫んだ。

「なにー!? きこえなーい!!」

 勢い良く風を切っている上に、フルフェイスのヘルメットを被っているので何かを言っていることはわかっても明瞭に聞き取れないのだ。

「せなかにー! 胸があたるんだけどー!!」

「えー? だから何て言ってるんだよーっ!?」

 聞こえない、と更に背中に強く抱きついた。

 制服越しにむにゅっと柔らかい感触が押し付けられる。それを注意したかったのだが聞こえないのなら仕方ない。

 これも役得か。メットの中で苦笑してそれ以上言及しなかった。



 学校についてみれば、ぎりぎりセーフで8時20分。

 メットをしまい、盛大に色を抜いた髪をかき上げた成実はおもむろに政宗の手をとった。

「さ、行こうか」

 意外と大きな手は小作りな白い手をしっかり握っている。

「あ……いやその、手はちょっと」

 これではまるでカレシと仲良く登校、みたいに見えて恥ずかしくなった政宗はバイク置き場から出る前に手を振り解いてしまった。

「? どしたの」

(こいつ、自覚ないのか……?)

「変な噂立てられたら、困るだろ」

 すぐ脇を女生徒の一群が通り、声が低くなる。

「そっかー。べつにおれはいいんだけど」

 ちゅっ。

 予鈴が鳴り始める廊下で「あ、やべ!」と走り出そうとした成実は去り際に政宗の前でかがみこむと、額に軽く唇を触れさせた。

「!」

 それは、ほんの一瞬の出来事。触れたかどうかという軽い感触。

 思いもよらぬ成実の行為に固まってしまった政宗へひらひら手を振りながら「んじゃまた後でね〜」と去ってゆく。

「……あ、あのヤロウ……!!」

 耳まで真っ赤になって握りこぶしを作り、追いかけて蹴り倒してやろうかと思ったところに教師が来てしまったので仕方なく教室へ

入っていった。



 久しぶりに学校へ現れた『お姫様』の噂は半日とせず校内中へ広まった。

 男子生徒たちの憧れ、教師達の期待の星、一部の運動部員の希望。

 美人、成績優秀、武道に優れるとあっては無理も無く。

 あまり同級生に友人を持たない政宗は、授業の間の休み時間も追試に備えて教科書とにらめっこ。

 その横顔をひと目見ようと教室外に学年を問わず野郎ども&野次馬がつめかけているのにも気づかなかった。

 そして。

 あの『2年の最上さん』が登校してきたということだけでなくもうひとつの噂もまた、指定感染症並みの速さで伝播していったのである。



 そんなひそひそ話と様々な意図を含んだ視線のなか午前中の授業が終わり、昼休みの始まりを告げるベルが鳴る。



「梵〜っ! お弁当いっしょに食べよう♪」

 誰もが政宗に声をかけられずにいる中、能天気な大声が教室の入り口からかかった。

 耳慣れない名前に、誰のことかとクラス中がきょとんとする中慌てたように席を立った政宗はにこにこと弁当箱を掲げる成実に駆

け寄った。

「成実! 学校でその名前を呼ぶなって言ったろ」

 髪の色が派手な成実は目立つ。生徒たちの視線が突き刺さるのにほんの僅か頬を赤らめて成実の腕を引っ張りその場から離れる。

「……誰、今の金髪」

「さあ……?」

「うちの部の幽霊部員。1−Aの伊達だよ。あいつ運動神経めっちゃ良いのに全然練習に来ねえの」

「なんであんな奴が」

「妙に親しげだよな。最上さんも名前で呼んでたし」

「うう、羨ましい!」

「そういや今朝も一緒にバイク乗って学校来てたぜ」

「額にキスしてんの見た奴がいるんだけど……」

 二人が去った後の教室は、(主に男子によって)騒然となった。



 そろそろ初冬へ季節を移そうとしているこの時期、肌寒くなってきた外で昼食をとろうという人間は少ない。

 あまり人目につかない場所をと選んだ屋上のへり、少し段になったところに二人は並んで腰掛けた。

「なあ成実」

「ん? なに?」

 うきうきと弁当をひろげ、おかずのエビフライにかじりつこうとした成実は政宗の微妙な声音に顔を向けた。

「学校では苗字で呼んでくれねぇ?」

「どうして?」

「付き合ってるって勘違いされても面倒だしな。あいつら、そういう話題に目がないから」

 すでに勘違いされまくっているのだが、それに気付いていない政宗はなおも続ける。

「イヤなんだ、そうやって色々言われるの」

 この容姿に加え、どことなく翳のある感じ。物静かなお嬢様、といった雰囲気で人を惹きつける彼女のことだ。つきあってくれと言

われたり誰が好きだろうなどと噂を立てられることが多いのだろう。

 そういった、この年代ならごく普通にあることをあまり好ましく思っていないらしい政宗は心底困ったようにフォークの先でブロッコリー

をつついた。

「それに、今朝の……ああいうのも、ちょっと」

 額に、キス。

 成実としては何の意図もないことらしいが、一般的に考えればただの友人や知り合いではあんなことはしない。

 今までも、好きだと言って抱きついたりする割には成実の行為から『そういう匂い』を感じなかったので拒んだりはしなかったが、

家でならともかく学校でやられた日にはどんなことを噂されることか。

「ん、わかった。梵がイヤなことはしないよ」

「だーかーらー」

「他の人がいなければ呼んで良いんでしょ? てか、そもそも梵の苗字知らないんだけど」

 気が付くと、成実の弁当箱は野菜を残して綺麗に中身がなくなっている。何時の間に食べたのやら……。

「あ……そういえば」

 一つ屋根の下に住んでいるというのに、苗字すら教えていなかったという事実に驚く。

 そもそも、彼らには殆ど自分の素性について教えていないのだ。それと同時に彼らのことも知らないことが多すぎるのだが。

「最上、だ。これからは学校ではそう呼べよ」

「了ー解。……ごっそーさま! 今日もうまかった!」

「Hey, まだ野菜が残ってるぞ。そういえばいっつも残してるよな? 好き嫌いしないでちゃんと食べろ」

「野菜、きらーい」

「ガキみてぇなこと言うなよ……」

「ガキだもん。んじゃ、食べさせて♪」

 あーん。雛のように口をあける成実のこれまた雛鳥じみたふわふわ頭をポカリと叩いた。

「調子に乗るな!」



「ちょっ……た、食べさせてるよ弁当!」

「政宗タンハァハァ……萌え〜」

「何ィ!? やっぱりあのクソ一年、最上さんと付き合ってるのか」

「てか弁当作ってあげてるんだ……いいなぁ俺も食ってみてぇ……!」

「え、マジで? 俺にも見せろ」

「うわ、押すんじゃねえよバカ」

「押すなって。やめろコラ!」



 どさどさどさっ!

「What!?」

 屋上入り口の方から複数の人間が倒れる物音と、男子生徒の悲鳴というか怒号が響き、びっくりして振り返った先には……。

 覗きよろしく出歯亀っていた男子生徒が小山をなして折り重なっていたのであった。



「だからイヤだって言ったのに……! 明日からどんなツラして学校来りゃいいんだよ……」

 放課後。追試を受けた政宗は約束どおり、バイク置き場で待っていた。

 しかし浅井教諭によるシゴキが長引いているのか肝心の成実がまだ来ていない。

「成実のやつ、まだ終わってないんだな」

 バイク置き場の柱にもたれ、何気なく周りを見回した。

 遠くで練習している運動部の声。夕日に映えて金色に輝いている銀杏の黄葉。近くの小学校からは帰宅時間を告げる『椰子の

実』のメロディ。

 『あれ』の前と全く変わらぬ学校生活。

 自分は途方もない年月を経たように変わってしまったというのに、自分の周辺を流れる時間は泰然として穏やかなまま。

 なんだか、取り残されてしまったみたいだ。

 いや、もしかすると独りで先へ歩いてしまったのかもしれない。

 ふいに寂しさを覚えて睫を伏せる。その瞼の裏に一瞬浮かんだ面影にどきりとして目を見開いた政宗の視界に一人の男子生徒

が入ってきた。

 ネクタイの色を見ると臙脂色で、三年生のようだ。

(あ……あの人は)

 スラリとした体躯に、どこぞのアイドルと見間違えそうな整った顔。

 今年の初春に全国大会でチームを国立競技場まで率いていった、サッカー部の元主将だ。

「最上さん? よかった……まだ帰っていなくて」

「白石先輩……なにか、俺に用ですか」

 白石と呼ばれた三年生は政宗の目の前まで来ると、多くの女生徒の羨望とラブレターを集めているその笑顔を彼女だけに向けた。

「最近、学校に来なかったからどうしたのかと思ってね。心配だったんだ」

「はあ……」

 学年も違えば縁もゆかりもない彼が何故そんなことを言うのか意図がつかめず、小首を傾げる。

「きみを見ていると、儚げで寂しそうで、守ってあげずにいられなくなる」

「?」

 いきなり何を言い出すのか。僅かに頬を紅潮させてうつ向き気味に喋る白石にリアクションできない。

 政宗が最も苦手とするシチュエーションだった。こういうことを言ってくる手合いが次に何を切り出すのかは分かりきっている。

「……僕と、付き合ってくれませんか」

「……えっと」

 忙しく瞬いて視線を逸らした政宗を恥ずかしがっていると思った白石はさらに畳み掛けてくる。

「今、誰か付き合っている人がいる? ……あの一年生?」

 成実のことだ。もうそんな話になっているのかと内心嘆息した。はっきり言って、鬱陶しい。

「いえ、違いますけど」

「じゃあ……!」

 政宗の返事を好意的なものと受け取ったのか、今にも手を握りそうな勢いで詰め寄る。

 今までにもこうやって、彼女になってくれと言ってくる人間は十指に余った。そのたびに断ってきたのだ。

 以前は単に男女づきあいというものが面倒だったから。

 そして直近は、男性というものに恐怖を抱くがゆえに。

 相手に不快感を与えずどう断ったものか……困り果ててしまった政宗は再び脳裏に浮かんだその人物の姿に心臓が跳ねる思い

がした。

(なんで、あいつが)

 だがそう考える前に口から勝手に断りの言葉が滑り出る。

「ごめんなさい……今、気になっている人がいて」

 ぺこ。白石に向かって申し訳なさそうに頭を下げながら、度々ちらつくその人物について必死に考えていた。

「そ、そっか。それなら仕方ないや。……上手くいくといいね、その人と」

 絶対の自信と共に告白したのだろう。有り得ない! といわんばかりに表情が歪んだが流石は女生徒の人気を一手に集めるだ

けあって、表面は極力穏やかに装って「お邪魔しちゃったね。それじゃ」と早足に去っていった。

 だが思索に心を奪われる政宗はそんな白石に目もくれず、唇の下に人差し指の第二関節を当てて困ったような戸惑うような、

様々な感情が入り混じった顔で柳眉を顰めている。



(なんでだ? どうして、気になるんだ)

 考えれば考えるほどわからなくなる。

 彼女の脳裏に浮かんだ人物。

 それは、あの始末屋。片倉小十郎であった。









To be continued...









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

実は憧れだった学園もの。Highの才覚のなさのお陰でものすごくありきたり(殴)
一度やってみたかったんですよ……そればっかりだな_| ̄|○

学校、卒業してもう十年以上経ってるから最近の高校生活って全然わかりません。